マンション売却後の確定申告は必要?
マンションの売却は、マンションの売り出し、売買契約を締結して引き渡しまで完了するとひと段落しますが、それで終わりではありません。忘れてはいけないのが確定申告です。確定申告は不動産売却後の大切な手続きとなりますが、そもそも確定申告になじみのない方も多いでしょう。この記事では、マンション売却後に確定申告が必要な理由や確定申告の一連の流れについてくわしく解説します。
この記事の目次
マンション売却後の確定申告とは?
マンション売却後の確定申告は、所得税を納付するために行います。マンションの売却によって売却益が発生すると「所得を得た」と判断されるからです。マンション売却で納付する税金は分離課税なので、給与所得や事業所得とは別に確定申告する必要があります。会社の年末調整では納付できないので注意してください。しかし、必ずしも売却益が発生するとは限らないため、損失が出た場合も含めた確定申告の目的について見てみましょう。
売却益が出た場合
売却益が出た場合、確定申告が必須になります。マンションを売却した翌年の2月16日〜3月15日の確定申告受付期間内に、手続きを終えるようにしましょう。ここで注意したいのは、売却益はマンションの売却額とイコールではないことです。つまり、マンションの売却額に対して、課税されるわけではないことをおさえておく必要があります。税法では売却することを「譲渡」と呼び、売却益のことを「譲渡所得」と呼びます。確定申告する際の必要書類にも出てくるので覚えておくとよいでしょう。譲渡所得はマンションの売却額から、仲介手数料や印紙税などの売却費用、そのマンションの購入額から減価償却費を除いた額などを差し引いて計算します。諸経費を計上して節税できるうえに、控除も適用できます。必要書類をそろえておくなど、事前に準備をしておきましょう。売却益が出た場合の確定申告は正当な納税のためだけではなく、節税や控除を受けるのも大きな目的です。
損益が出た場合
マンション売却で損失が出た場合、確定申告は必要ありません。しかし、申告をしておいた方が優遇制度が受けられる可能性があります。損失とは、前項でご紹介した「譲渡所得」がマイナスの値になることを意味します。税法には損益通算という制度があり、譲渡所得にも適用されます。つまり、譲渡所得のマイナス分を給与所得や事業所得に適用できます。これによって所得税が節税できるのです。損益通算するためには既に支払った所得税に対して、還付申告をする必要があります。還付申告をすることで、過払い分の所得税について還付を受けられます。損失が出た場合の確定申告は、このような税制優遇を目的に行うことをおすすめします。
確定申告の流れは?
確定申告をする際には、まず必要な情報を全て手元に揃えてから、確定申告書の作成に取り掛かりましょう。国税庁のホームページに「確定申告書作成コーナー」があります。このツールを使うことで、確定申告書の作成は、PC環境があれば全て自宅からでも行えます。提出は郵送でも可能です。自宅で書類作成を済ませたい方に向けて、確定申告の流れについてくわしく解説します。
1.適用される特例があるか確認
2.必要な書類を用意
3.譲渡所得税を計算
4.確定申告書を作成、提出する
1.適用される特例があるか確認
「確定申告書等作成コーナー」から申告書を作成した場合は、その時点の法令で有効な特例が一覧表示されます。そこから質問に回答するように選択式で入力できるため、途中まで入力してみて適用できそうな特例を確認しておくというのも手段の一つです。ここでは代表的な特例を5つご紹介します。
(1)マイホームを売ったときの特例
マイホームを売った際に、譲渡所得から最大3,000万円まで控除されます。
課税所得が3,000万円を下回った場合にもこの特例が適用され、譲渡所得がなかったことにできます。
(2)所有期間10年超のマイホームを売ったときの軽減税率の特例
この特例は、前述の特例(1)と合わせた適用が認められているため「課税所得 – 3,000万円」を超える額に適用されると考えてよいでしょう。
適用されると「課税所得 – 3,000万円」〜6,000万円までは税率が14.21% (所得税10.21% + 住民税4%)に軽減されます。6,000万円を超える分には、本来の税率20.315%が適用されます。
(3)特定のマイホームを買い換えたときの特例
マイホームを買い替えた場合に、譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができます。たとえば、以下のようなケースに適用できます。
- マイホームを1,000万円で購入する。
- マイホームを5,000万で売却し、特例(3)を適用する。
- マイホームを7,000万円で買い替える。
- マイホームを8,000万円で売却する。
- 繰り延べていた4,000万円を加えた5,000万円の譲渡所得に対して納税する。
(4)マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
こちらが前項「損益が出た場合」で紹介した損益通算できる特例です。損益通算しきれなかった損失額は、売却年から3年後まで繰り越して控除できます。
(5)特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホーム売却額が住宅ローン残高を下回っている場合、損失額をその他の所得と損益通算できます。
特例(4)と同様に、損益通算しきれなかった損失額は、売却年から3年後まで繰り越して控除できます。ただし、上記(1)~(4)の特例と併用することはできません。
2.必要な書類を用意
確定申告する際には、税額を計算するために必要な金額を、記載する必要があります。必要な金額が分かる書類を手元に用意してから、申告を開始しましょう。
前項「1.適用される特例があるか確認」で紹介した特例を受ける場合は、添付書類を用意する必要があります。
それぞれ見ていきましょう。
自分で用意するもの
適用する特例に関係なく、共通して必要となる書類は以下の4種類です。
- 売却したマンションを購入したときの売買契約書
- 売却したマンションを購入したときにかかった費用の領収書など
- マンションを売却したときの売買契約書
- マンションを売却したときにかかった費用の領収書など
これらの書類を手元に用意してから、申請書の作成を始めましょう。売買契約書は購入時のものも必要なので、忘れずに用意してください。売買時に支払った領収書とは、「譲渡費用」や「取得費」に分類される仲介手数料や印紙代の領収書のことです。確定申告する際に、経費として計上することで課税対象額を減らせます。経費の計上は必須ではありません。しかし、節税という観点では経費と認定されるものは、なるべく計上しましょう。
税務署で取得するもの
税務署では以下3つの書類を入手する必要があります。
- 譲渡所得の内訳書
- 確定申告書B様式
- 分離課税用の申告書
分離課税の申告がある場合、「申告書B」と「第三表(分離課税用)」を使用します。譲渡所得税が分離課税にあたるためです。入手方法は、国税庁ホームページからのダウンロードになります。記入までを済ませてからダウンロードしたい方は「確定申告書等作成コーナー」を使いましょう。必要事項を入力しながら、自動的に必要書類が作成できます。
前述「1.適用される特例があるか確認」で紹介した特例(3)を適用する場合は「確定申告書等作成コーナー」から添付書類が作成できないのでご注意ください。(2022年7月時点)
その他、特例適用のために添付が必要な書類については、国税庁のホームページから最新情報を確認するようにしてください。
3.譲渡所得税を計算
譲渡所得税は以下の計算式によって算出します。
- (1)譲渡所得 = 譲渡価額 – 取得費 – 譲渡費用
- (2)課税譲渡所得 = 譲渡所得(1) – 特別控除額
- (3)譲渡所得税 = 課税譲渡所得(2) x 税率
専門用語が多数出てきて理解しにくい面もありますが、事前に知っておくことで確定申告する際の書類作成がスムーズに行えます。譲渡所得税の計算は「確定申告書等作成コーナー」に値を入力していくことで、自動計算が可能です。ここでは、手書き書面で提出する場合を想定し、以下のモデルケースになぞらえて譲渡所得税を計算してみましょう。
【モデルケース】
売主が8年半前に3,000万円(建物分2,100万円、土地分900万円)で購入したマンションを4,500万円で売却したケースです。
買主との売買契約は令和4年5月末に締結し、手付金として450万円を受領しました。同年7月末に残金4,050万円と固定資産税清算金6万円を受領するとともに、マンションの引き渡しが完了します。売主はマンションの売却で、仲介手数料155万および収入印紙代1万円を支払いました。
3-1.譲渡価格を算出
マンションの売却額を税法では「譲渡価額」と呼びます。今回のモデルケースにおける譲渡価額は、マンションの売却価格と固定資産税清算金を合わせた4,506万円です。固定資産税はその年の1月1日時点の所有者がまとめて納税するため、譲渡日からその年の12月31日までの負担分を、固定資産税清算金として買主に移転します。
3-2.取得費を算出
取得費とは、そのマンションの購入額から減価償却費を引いたものです。減価償却費は、築年数に応じて目減りした価値を機械的に差し引くためのもので、以下の式で計算します。
減価償却費 = 建物の取得費 x 0.9 x 償却率0.015 x 経過年数
※小数点以下は「1」にくり上げます。
・償却率
建物の主な建材によって変動しますが、マンションの場合は「0.015」となります。
・経過年数
その建物が新築された日からの年数です。半年ごとに繰り上げされるので注意しましょう。
たとえば、所有期間が5年4か月の場合は「5年」、5年6カ月の場合は「6年」となります。
今回のモデルケースでは、以下の式で取得費を算出します。
減価償却費 = 2,100万円 x 0.9 x 0.015 x 9年 = 256万円
取得費 = 3,000万円 – 減価償却費256万円 = 2,744万円
3-3.譲渡費用を算出
譲渡費用とは、仲介手数料、売買契約書に貼り付けた収入印紙代です。今回のモデルケースにおいては、仲介手数料155万と収入印紙代1万円を合わせて156万円ということになります。
3-4.譲渡所得を算出
ここまでの計算結果を踏まえ、譲渡所得を計算すると以下のようになります。
(1)譲渡所得 = 譲渡価額4,506万円 – 取得費2,744万円 – 譲渡費用156万円 = 1,606万円
(2)課税譲渡所得 = 譲渡所得1,606万円 – 特別控除額 1,606万円 = 0円
(3)譲渡所得税 = 課税譲渡所得0円 x 税率20.315% = 0円
今回のモデルケースの場合、上で紹介した「マイホームを売ったときの特例」が適用できます。課税譲渡所得から最大3,000万円控除されるため、今回は満額の1,606万円が控除額となりました。
以上より、モデルケースにおける譲渡所得税は「0円」ということになります。確定申告をしたことで売却益(譲渡所得)に対する節税ができました。
4.確定申告書を作成、提出する
必要な情報がそろった時点で、書類の作成を済ませてしまいましょう。
作成する書類は以下3つです。
- 譲渡所得の内訳書
- 確定申告書B様式
- 分離課税用の申告書
書類の作成方法は、自分で作成する方法と税理士に依頼する方法、または無料相談会を利用するなどいくつか手段があります。
・自分で作成する場合
国税庁のホームページ「確定申告書等作成コーナー」で作成したものを印刷し郵送する方法がおすすめです。この場合はPC環境が必要です。
郵送する場合、通信日付印に表示された日付が確定申告受付期間内となっている必要があります。期日前に発送するように注意しましょう。
個人事業を営んでいて、普段からe-Taxを使用しているという方もいるでしょう。そういう方は、郵送を利用せずにオンライン申請も可能です。
この場合は「マイナンバーカード」と「ICカードリーダー」およびPCにe-TaxソフトがインストールされたPC環境が必要になります。
・税理士に依頼する場合とその他
税理士に依頼する場合、数万円の依頼費用がかかります。
税理士への依頼の敷居が高く感じる方は、無料相談会に参加してみましょう。個別相談会では、税理士が無料で申告書の書き方を指導してくれます。
マンション売却後に確定申告を忘れたらどうなるの?
マンションの引き渡し日が属する年の、翌年2月16日から3月15日までの間に確定申告を済ませる必要があります。譲渡所得が発生しない場合も、基本的には確定申告が必要と考えて書類の保管を怠らないよう注意してください。期限を過ぎた確定申告は「期限後申告」として扱われ、以下のペナルティが課せられます。
- 本来の納税の他に「無申告加算税」が課せられます。
- 本来の納税額に期限を過ぎた分の「加算税」が課せられます。
申告漏れに気が付いたら、できるだけ早く申告するようにしましょう。早く申告すればするほど加算税率が下がるなど、ペナルティは軽く済みます。
個人が所有する住居用マンションの売却でも、確定申告が必要なので忘れずに手続きをしましょう。
まとめ
今回はマンション売却後の確定申告について、必要な前提知識を解説しました。ポイントは以下3点です。
- マンション売却で売却益が出た場合、必ず確定申告が必要になる。
- 書類の作成は国税庁が提供している「確定申告書作成コーナー」を使うのがおすすめ。
- 確定申告を忘れた場合は加算税が課される。
マンション売却後における確定申告の必要性について、ご理解いただけたのではないでしょうか。不利益を被ることなく正しく手続きが終えられるように、売却後すぐに前もって準備しておくことが大切です。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久
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