不動産投資
2023.08.04

アパート売却における減価償却を解説。計算方法や譲渡所得税への影響も紹介

アパート売却における減価償却を解説。計算方法や譲渡所得税への影響も紹介

アパートを売却する際に利益が発生した際には、譲渡所得税が課税されます。

譲渡所得を算出する際に重要となるのが減価償却の計算です。アパート売却における減価償却を解説するとともに、譲渡所得税にどのように影響を与えるのかについても紹介します。

この記事の目次

アパート(事業用不動産)売却時に計算する減価償却とは

アパートを売却したときには、減価償却費がいくらになるかによって譲渡所得税額に影響します。

まず減価償却とは何か、減価償却をする目的や事業年度中に売却したときの減価償却費の計算方法について解説します。

減価償却とは

減価償却とは、アパートの建物部分が年数の経過によって劣化・価値が減少していく分の金額を、帳簿上の建物価格から減らしていく会計処理のことです。減価償却による価値の減少分を「減価償却費」と呼びます。

アパートの減価償却費の計算方法には、定額法と定率法があります。

定額法の場合

定額法は取得額に償却率をかけたものを毎年償却していきます。

減価償却費=取得額 × 償却率

耐用年数は物品ごとに細かく財務省令によって定められています。

建物・不動産の法定耐用年数は下記のとおりです。

種類 耐用年数(年)
木造 22
鉄骨造り(鉄の厚みが3㎜~4㎜) 27
鉄骨造り(鉄の厚みが4㎜超) 34
RC造り(鉄筋コンクリート) 47

参考:減価償却資産の耐用年数等に関する省令 | e-Gov法令検索

定額法では毎年の償却費が一定になり計算がとてもわかりやすい点がメリットです。また、定率法と比べて初年度の減価償却費が少なくなるので初年度の利益が多く計上されることになります。

現在では原則として、建物の減価償却は定額法によって行うことになっています。

定率法の場合

毎年一定の償却率を償却していない残高にかけたものがその年の減価償却費になります。

減価償却費=未償却額 × 償却率

定率法での減価償却費は初年度が高く、年ごとに減少していくことになります。未償却額(被乗数)が年々減っていくためです。

減価償却する理由

建物などの固定資産は一定期間継続して使用することが予想されます。そして固定資産を使用することで利益を得ることに貢献します。

そのため、固定資産は取得したときに一度に経費として計上することは適当でなく使用期間に応じて費用として計上するべきだと考えられています。

これを「費用収益対応の原則」と呼んでいます。

減価償却は以下の場面で重要な役割を果たしています。

  • 税金の節税:減価償却費は、事業所得などの必要経費として認められるため、所得税や法人税の負担を軽減できます。
  • 財務諸表の適正化:減価償却費は、固定資産の帳簿価額を現実に近い価値に反映させることで、財務諸表の信頼性や正確性を高められます。
  • 譲渡所得の算出:減価償却費は、不動産売却時にかかる譲渡所得税の計算に必要な取得費を求めるためにも使われます。
  • 取得費は、取得時の建物価格から減価償却費を差し引くことで算出されます。

減価償却は取得費として譲渡所得の計算に影響するため、アパート売却時には減価償却費を正しく計算することが必要です。

月の途中で売却した際の減価償却はどうなる?

減価償却費は決算期末に所有している固定資産について計上することが原則ですが、決算期途中で売却した場合には、所有期間に応じて案分して計上することになります。

月の途中で売却した際の減価償却は、以下のようになります。

  • 売却月の減価償却費は、売却日までの日割り計算で算出します。
  • 売却月以前の減価償却費は、通常通り年間の償却率で算出します。
  • 売却月以降の減価償却費は、発生しません。

減価償却費はアパート売却の譲渡所得税にどのように影響する?

これまで減価償却とはどのようなものかみてきましたが、ここでは具体的にアパートを売却したときの税金にどのように影響するかをみてみましょう。

建物は減価償却費を差し引いて取得費を算出

土地は購入代金をそのまま取得費として計算できますが、建物の場合は減価償却費を差し引いて算出することになります。

売却益が発生すると、その売却益に対して所得税などが課税されます。この譲渡所得税を計算するときに重要になるのが減価償却費です。

売買代金から取得費や必要経費を差し引いた利益について、譲渡所得税が課税されるからです。この取得費に減価償却費が影響します。

アパート売却時にかかる税金は

アパート売却時にかかる税金は、主に以下の3種類です。

印紙税
売買契約書などの課税文書にかかる税金で、契約金額に応じて変わります。
登録免許税
不動産の所有者の住所変更や抵当権抹消などの登記をする際にかかる税金で、登記する事項や対象の金額に応じて変わります。
譲渡所得税
アパートの売却によって利益が出た場合、その利益に対して課税される税金で、所有期間や売却益の額に応じて変わります。

譲渡所得税は、アパートを保有していた期間で短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられます。

所有期間ごとの譲渡所得の税率
所有期間 所得税(%) 住民税(%)
5年以下(短期譲渡所得) 30.63 9
5年超(長期譲渡所得) 15.315 5

短期譲渡所得は、所有期間が5年以下の場合で、所得税30%に住民税9%が加わって全部で39%です。

参考:No.3211 短期譲渡所得の税額の計算|国税庁

長期譲渡所得は、所有期間が5年超の場合で、所得税15%に住民税5%が加わって全部で20%です。

参考:No.3208 長期譲渡所得の税額の計算|国税庁

なお、平成25年から令和19年までは、復興特別所得税として各年分の基準所得税額の2.1%を所得税と併せて申告・納付することになります。

譲渡所得の計算方法

譲渡所得の計算方法は、以下のようになります。

譲渡所得=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特例控除
譲渡価額
アパートを売却したときの売買価格と固定資産税の精算金の合計額
取得費
アパートを購入したときの代金や仲介手数料などの合計額から、建物部分の減価償却費を差し引いた額
譲渡費用
アパートを売却する際にかかった仲介手数料や登録免許税などの合計額
特例控除
事業用不動産の買い替え特例などが該当する場合に適用される控除額

取得費については、土地については購入代金そのものですが、建物については減価償却が必要な点に注意しましょう。

計算例

たとえば、以下のような条件でアパートを売却したとします。

  • 購入時(10年前)の代金:1億円(土地5,000万円・建物5,000万円)
  • 建物は木造・住宅用
  • 売却価格:1億2,000万円
  • 固定資産税精算金:20万円
  • 仲介手数料(消費税込み):360万円
  • 特例控除:なし

木造・住宅用の減価償却率を求めます。

種類 耐用年数(年)
木造 22
鉄骨造り(鉄の厚みが3㎜~4㎜) 27
鉄骨造り(鉄の厚みが4㎜超) 34
RC造り(鉄筋コンクリート) 47

耐用年数表をみると木造・住宅用の建物の耐用年数は22年であることがわかります。耐用年数22年の固定資産の減価償却率は0.044です。

この場合、譲渡所得は以下のように計算できます。

譲渡価額=1億2,000万円+20万円=1億2,020万円

(固定資産税精算金は収入とみられます)

参考:未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合|国税庁

取得費=土地購入代金5,000万円+建物購入代金(5,000万円)-建物減価償却費(5,000万円×0.044×10年=2,200万円)=7,800万円

譲渡費用=360万円

譲渡所得=1億2,020万円-(7,800万円+360万円)=3,860万円

譲渡所得税=3,860万円×20%=772万円

復興特別所得税=3,860万円×2.1%=81万600円

以上のように、アパート売却時にかかる税金は、様々な要素によって変わります。税金対策をするためには、事前に計算しておくことが大切です。

アパート売却時の税金や費用は、実績豊富な不動産会社に相談

アパートは事業性のある不動産なため、一般の不動産を売却するときとは異なる点が多くあります。

不動産会社の業務は賃貸や売買など多岐にわたるうえ、売買についてはさらに住宅用、店舗用、賃貸住宅、倉庫物件、など不動産会社が主に扱っている商品もそれぞれ異なります。

ここでは、アパートを売却するときの注意点や不動産会社を選ぶときのポイントについて解説します。

アパート売却時の注意点

アパートを売却するときは、以下のような点に注意する必要があります。

  • アパートは、事業用不動産として扱われるため売却時にかかる譲渡所得税は、居住用不動産の場合とは異なる税率や特例が適用されます。
  • アパートは、賃貸経営を行っている場合が多いため、売却時には借主の権利や契約内容に配慮する必要があります。
  • 借主に立退きを求める場合や、借主を引き継ぐ場合には、事前に相談や交渉を行う必要があります。
  • アパートは、建物部分の価値が減価償却によって減少していくため、売却時には建物部分の取得費から減価償却費を差し引く必要があります。
  • 減価償却費は、建物の種類や耐用年数によって決まります。

以上のように、アパート売却は、通常の不動産売却と比べて、税金や借主などの面で留意すべき点があります。アパート売却を検討する際には、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

不動産会社選びのポイント

アパートの売却を依頼する不動産会社を選ぶ際のポイントには、以下のようなものがあります。

仲介手数料

不動産会社に仲介を依頼する場合に支払う手数料で、売却価格に応じて変わります。消費税もかかります。

仲介手数料は、法律で上限が定められています(簡易計算方法で売却代金の3%+6万円)が、下限はありません。そのため、不動産会社によって仲介手数料は異なります。

仲介手数料は、売却価格から差し引かれることが多いため、手元に残る金額に影響します。安ければ良いというものではありませんが、適正な価格であるかどうかを確認することが大切です。

サービス内容

不動産会社が提供するサービス内容は、不動産会社によって異なります。サービス内容には、以下のようなものがあります。

項目 内容
査定方法

アパートの現状や市場動向などを分析して、売却価格の目安を算出することです。

査定は、無料で行われることが多いですが査定方法や査定額は、不動産会社によって異なります。査定額は、売却価格と同じではありませんが、売却価格の設定に影響します。

査定額が高すぎると売れにくくなります。また低すぎると損をする可能性があります。そのため、複数の不動産会社から取得して比較検討することがおすすめです。

広告

アパートの情報をインターネットやチラシなどで広告することです。

広告は、アパートの魅力や特徴を伝えることで、買い手を集める役割を果たします。

不動産会社が負担することが多いですが、広告媒体や広告費用は、不動産会社によって異なります。広告媒体や広告費用は、アパートの販売力に影響します。

契約

売買契約を締結する際は、売主と買主の合意が必要ですが不動産会社が契約書の作成や説明、契約金の預かりや支払いなどを行います。

契約は法律的な知識や手続きが必要なため、不動産会社のサポートが重要になってきます。

引渡し

アパートの引渡しを仲介することです。

引渡しは、売主がアパートを買主に引き渡すことですが、不動産会社が引渡し日の調整や引渡し時の立会い、残金の決済などを行います。売却の最終段階でありトラブルが起きやすい場面です。

販売力やノウハウ

不動産会社が持つ販売力やノウハウは、アパート売却の成否に大きく影響します。販売力やノウハウには、以下のようなものがあります。

項目 内容
顧客数やネットワーク

不動産会社が持つ顧客数やネットワークは、アパートの買い手を見つける能力を表します。

顧客数やネットワークが多いほど、アパートに興味を持つ人や購入意欲の高い人にアプローチできる可能性が高まります。顧客数やネットワークは、不動産会社の規模や実績によって異なります。

地域性や物件性

不動産会社が持つ地域性や物件性は、アパートの価値を評価する能力を表します。

能力が地域性や物件性が高いほど、アパートの魅力や需要を正しく把握できる可能性が高まります。

地域性や物件性は、不動産会社の専門分野や得意分野によって異なります。

交渉力や対応力

不動産会社が持つ交渉力や対応力は、アパート売却の条件を決める能力を表します。たとえば、売主と買主の間で生じる金額や期日などの交渉やトラブルへの対応などです。

交渉力や対応力が高いほど、売主にとって有利な条件で売却できる可能性が高まります。

自分のニーズに沿って不動産会社を選ぶ

アパート売却を依頼する不動産会社選びは、アパート売却の成功に大きく影響します。

不動産会社によって、仲介手数料やサービス内容、販売力やノウハウなどが異なります。そのため、複数の不動産会社を比較検討して、自分のニーズに合った不動産会社を選ぶことが重要です。

この記事を書いた人

著者写真 TERAKO編集部
小田急不動産
横溝 浩由

誠実がモットー。これまでのお客様との出会いが投資不動産領域での私自身の見識を高めることに繋がっており、お客様への感謝を胸に、いかに皆様のお役に立てる情報を発信できるかが重要と思っております。こんなことをもっと知りたい等、お気軽にお声掛けいただけると嬉しいです。 著者の記事一覧はコチラ
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