古いアパートを所有する大家が知っておくべき選択肢|売却・建て替え・リフォーム
築年数を重ねたアパートは、空室の増加や修繕費の負担、入居者対応など、経営上の悩みが積み重なりやすいものです。売却・建て替え・リフォームという3つの選択肢を軸に、判断材料となる費用相場や税金、手続きの流れを整理しました。
この記事の目次
築年数を重ねたアパートは、空室の増加や修繕費の負担、入居者対応など、経営上の悩みが積み重なりやすいものです。売却・建て替え・リフォームという3つの選択肢を軸に、判断材料となる費用相場や税金、手続きの流れを整理しました。
古いアパートを所有する大家が抱えやすい悩み
築古アパートのオーナー様からは、収益面と管理面の両方にまたがる相談が寄せられます。まずは代表的な5つの悩みを見ていきましょう。
空室が埋まらず家賃収入が減少している
総務省が公表した「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家率(持ち家・別荘等も含む住宅全体ベース)は13.8%とされています。
築年数が経過した物件ほど設備の見劣りが目立ちやすく、周辺の新築・築浅物件に入居者を奪われる傾向が強まります。
修繕費が年々増えて利益が残らない
外壁塗装や屋根防水などの大規模修繕は10~15年周期での実施が一般的で、木造2階建て10戸程度のアパートでは1回あたり300万円前後の費用がかかるとされています。
築年数が進むにつれて工事項目が増え、家賃収入に対する修繕費の割合が高くなっていきます。
設備の老朽化によるクレームが増えている
給排水管の劣化や共用部の破損は、入居者からの苦情につながりやすい項目です。放置すると退去の増加や口コミの悪化を招き、募集条件を下げても入居が決まりにくくなる悪循環に陥ります。
高齢入居者への対応や孤独死リスクが心配
築古物件は家賃の手頃さから高齢の単身入居者が集まりやすく、見守りや緊急時対応、万が一の際の原状回復費用など、通常の賃貸経営にはない負担が生じることがあります。
相続したアパートをどうすればいいかわからない
親族から築古アパートを相続したものの、経営のノウハウがなく、そのまま放置してしまうケースも少なくありません。相続後は名義変更や税務手続きと並行して、経営を続けるか手放すかの判断が必要になります。
このような悩みを放置すると、次に説明するリスクへとつながっていきます。
古いアパートを所有し続けるリスク
築古アパートを漫然と保有し続けることには、収益性と資産価値の両面でリスクが伴います。
修繕費が今後さらに高額になる可能性
大規模修繕は10〜15年周期での実施が一般的とされ、外壁塗装や屋根防水、給排水管の交換などをまとめて行うため、1回あたりの費用がまとまった金額になりやすいのが特徴です。対応を先延ばしにするほど劣化が進行し、次の修繕時に工事項目が重なって費用がさらにかさむ傾向にあります。
空室率の上昇と家賃下落
2026年時点の目安として、全国の賃貸住宅空室率は13~14%、首都圏では10~11%前後とされる一方、地方都市や人口減少エリアでは25~35%まで悪化するケースもあると分析されています。築30年を超え、設備が現代水準に達していない物件ほど、この傾向の影響を強く受けやすくなります。
耐震基準・設備更新への対応
1981年5月31日以前に建築された建物は旧耐震基準に該当し、耐震性への不安から入居者や買主に敬遠されやすくなります。給湯設備やインターネット環境など、現代の入居希望者が重視する設備が整っていないことも、競争力低下の要因になります。
事故物件化や管理リスク
空室が長期化すると不法侵入や設備の不具合発見の遅れなど、管理上のリスクが高まります。万が一の事故や事件が発生すれば、いわゆる事故物件として扱われ、その後の入居募集や売却価格に影響が及ぶ可能性があります。
資産価値が年々下がる可能性
建物の価値は減価償却によって時間の経過とともに目減りしていきます。土地の価値が相対的に高くなる一方、老朽化した建物が残っていることで、かえって売却の妨げになるケースもあります。
これらのリスクを踏まえたうえで、具体的にどのような選択肢があるのかを整理していきます。
古いアパートの3つの選択肢を比較
築古アパートの主な対処法は「リフォーム・リノベーション」「建て替え」「売却」の3つです。それぞれの特徴を順に見ていきましょう。
リフォーム・リノベーションする
建物の骨格を活かしながら内外装や設備を刷新する方法です。
メリット
建て替えに比べて工期が短く、初期費用を抑えられる点が魅力です。入居者がいる部屋を残しながら空室部分から順に工事を進めることもでき、立ち退き交渉の負担を軽減できます。
デメリット
建物の構造自体が劣化している場合は、リフォームでは根本的な解決にならないことがあります。工事箇所と未工事箇所でデザインの統一感が失われる懸念もあります。
費用相場
壁や天井のクロス張り替えは1平方メートルあたり1,000~1,500円程度、システムキッチンの交換は1台50万~100万円程度が目安です。一棟全体のリノベーションでは、戸数や工事範囲によって総額が大きく変動します。
工事範囲別の費用イメージは次のとおりです。
| 工事内容 | 費用目安 |
| クロス張り替え(1戸30㎡) | 11万~16万円 |
| セパレートキッチン交換 | 15万~30万円 |
| システムキッチン交換 | 50万~100万円 |
| 大規模修繕(木造10戸) | 300万円前後 |
リフォームで解決が難しい劣化度合いの場合は、建て替えも選択肢に入ってきます。
建て替えて経営を続ける
既存の建物を解体し、新築のアパートとして経営を再開する方法です。
メリット
最新の耐震基準や設備水準を満たした物件になるため、入居者からの競争力が大きく回復します。減価償却を再度活用できる点も、税務面でのメリットになります。
デメリット
解体費用・立ち退き費用・新築費用の合計で数千万円規模の投資が必要になり、工事期間中は家賃収入が途絶えます。融資を利用する場合は、返済計画も含めた長期的な収支シミュレーションが欠かせません。
向いているケース
土地の立地条件がよく、建て替え後も高い入居需要が見込めるエリアに適しています。木造アパートの建築費は坪単価66万~105万円程度が目安とされており、解体費用は構造によって坪単価5万~7万円程度が一般的です。長期保有を前提にできる資金力とエリアの将来性が判断のポイントになります。
土地活用としての再投資が難しい場合には、売却という選択肢を検討することになります。
古いアパートを売却する
建物の状態や収益性に応じて、そのまま第三者へ売却する方法です。
現状のまま売却できるケース
建物の劣化が著しくても、土地の評価額が高いエリアであれば、更地化を前提とした買主が見つかることがあります。解体費用を売主・買主のどちらが負担するかは交渉次第です。
入居者がいても売却できる理由
入居者がいる状態、いわゆるオーナーチェンジとしての売却も可能です。投資用物件を探す買主にとっては、購入直後から家賃収入が得られる点が魅力になり、空室のアパートよりもスムーズに売却が進むこともあります。
収益物件として売却する方法
利回りを基準に価格を算出する収益還元法での評価が中心となるため、家賃収入や稼働率の実績を示す資料をそろえておくと、買主の判断材料になり査定額の根拠も明確になります。
古いアパートは売却した方がいいケース
3つの選択肢を比較したうえで、特に売却が現実的な選択肢となりやすいケースを整理します。
築30年以上経過している
木造アパートの法定耐用年数は22年とされており、築30年を超えると金融機関からの融資評価が下がりやすくなります。大規模修繕や建て替えの投資判断が難しくなる築年数の一つの目安です。
修繕費が家賃収入を圧迫している
毎年の修繕費が家賃収入の大部分を占めるようになった場合、経営を継続するほど手元に利益が残りにくくなります。今後発生する修繕項目を洗い出したうえで、投資額に見合う収益改善が見込めるかを冷静に見極める必要があります。
空室率が改善しない
リフォームや募集条件の見直しを行っても入居が決まらない状態が続く場合、立地や建物構造そのものの競争力に限界が来ている可能性があります。
相続したが運営する予定がない
賃貸経営の経験がなく、管理会社に任せてもなお不安が残る場合は、早めに売却して現金化したほうが、他の資産形成や納税資金の確保につながりやすくなります。
建物より土地の価値が高い
建物の収益性が乏しくても、土地そのものの評価額が高いエリアであれば、更地化を前提とした売却によって好条件を引き出せることがあります。
売却を選ぶ場合、少しでも高く売るためのポイントも押さえておきましょう。
古いアパートを高く売却するポイント
同じ物件でも、売却の進め方次第で成約価格には差が出ます。特に押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
収益物件に強い不動産会社へ相談する
一般的な仲介会社と、収益物件の取引実績が豊富な会社とでは、買主となる投資家層へのアプローチ力に差があります。賃貸経営や利回りの考え方を理解した会社を選ぶことで、適正な価格での成約につながりやすくなります。
複数社へ査定依頼する
1社だけの査定額を鵜呑みにせず、複数の不動産会社に査定を依頼することで、相場感を客観的に把握できます。査定額の根拠となる周辺の取引事例や利回り水準も確認しておきましょう。
売却タイミングを見極める
不動産の所有期間は、譲渡した年の1月1日時点で5年を超えているかどうかで税率が大きく変わります(後述)。相続で取得した物件の場合は、被相続人の取得日から所有期間を通算する点にも注意が必要です。
税金面の負担を正しく把握しておくことも、売却の判断材料として欠かせません。
売却前に知っておきたい費用・税金
アパートの売却では、仲介手数料や税金など見落としがちな支出も発生します。事前に把握しておきたい4つの項目を確認しましょう。
譲渡所得税
土地や建物を売却して利益(譲渡所得)が生じた場合、所有期間5年超の長期譲渡所得には20.315%、5年以下の短期譲渡所得には39.63%の税率が課されます(出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」、「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」)。短期と長期で税負担が約2倍近く異なるため、所有期間の起算日を正確に確認することが重要です。
解体費用が必要になるケース
建物を取り壊してから土地として売却する場合、木造アパートで坪単価5万円前後、鉄骨造やRC造ではさらに高くなる傾向があります。買主が解体を前提として値引き交渉をしてくることもあるため、解体前後どちらで売却するほうが有利かを事前に比較検討しておくとよいでしょう。
仲介手数料
不動産売却時の仲介手数料は、宅地建物取引業法により上限額が定められています。
売買価格が400万円を超える場合の速算式は「売買価格×3%+6万円+消費税」です。
相続物件の税制特例
相続した空き家を売却した際に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例がありますが、対象は被相続人が生前ひとりで居住していた家屋に限られ、賃貸に供していたアパートは原則として対象外です(出典:国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」)。
相続した賃貸アパートを売却する場合は、納めた相続税の一部を取得費に加算できる「相続税の取得費加算の特例」の活用が現実的な選択肢になります。どちらの特例が有利かはケースによって異なるため、税理士への相談をおすすめします。
税金の見通しが立ったところで、実際の売却の流れを確認しておきましょう。
古いアパート売却の流れ

実際の売却は、査定から引渡しまで大きく4つのステップで進みます。それぞれの流れを確認しておきましょう。
査定依頼
複数の不動産会社に査定を依頼し、価格の根拠や販売戦略の説明を比較します。収益物件の場合は、レントロール(家賃明細)や修繕履歴の資料も準備しておくと、査定の精度が上がります。
媒介契約
査定額や対応内容を比較したうえで、仲介を依頼する不動産会社と媒介契約を締結します。契約形態には専属専任・専任・一般の3種類があり、それぞれ他社への重複依頼の可否や販売活動の報告頻度が異なります。
売買契約
買主が決まったら、価格や引渡し条件、瑕疵担保責任の範囲などを取り決めたうえで売買契約を締結します。入居者がいる状態での売却では、賃貸借契約の承継についても契約書に明記しておく必要があります。
引渡し
残代金の受領と同時に、鍵や関係書類を買主に引き渡します。入居者がいる場合は、オーナー変更に伴う通知や敷金の引き継ぎ手続きも忘れずに行いましょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
二本松 敏
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