マンション一棟買いでもローンは利用できる?審査基準と失敗しないポイント
マンション一棟を購入して賃貸経営を始める場合、まず重要になるのが「ローンを組めるかどうか」です。区分マンションと異なり、融資額が高額になる一棟買いでは、ローン選びを間違えると資金繰りが一気に苦しくなる場合があります。
安定した家賃収入を目指すためには、融資の仕組みや審査の考え方を正しく理解することが欠かせません。一棟買いで利用できるローンの種類や審査基準、失敗を避けるためのポイントについて解説します。
この記事の目次
マンション一棟買いで利用できるローンとは?
マンション一棟の購入では、マイホーム用の住宅ローンは使えません。原則として、「アパートローン」や事業用融資の「プロパーローン」を利用することになります。
投資用のローンも金融機関ごとに金利や融資期間、審査の難易度が異なるため、ご自身の状況と物件の規模に最適な金融機関を選ぶことが大切です。
主なローンの種類と必要な資金の目安についてわかりやすく解説します。
利用できるローンの種類
マンション一棟買いで利用する融資は、主に「パッケージ型のアパートローン」「公的機関の融資」「プロパーローン(事業用融資)」の3つに分けられます。
それぞれの特徴を理解し、戦略的に使い分けることが必要なため詳しく見ていきましょう。
アパートローン
アパートローンは、物件の購入や建築など不動産投資で利用できるローン商品です。金融機関ごとに審査基準や判断指標が明確に設定されているものが多く、条件を満たしている方はスピーディーに審査が進むでしょう。
投資用ローンでは、「年収700万円以上」が一つの基準とされることが多く、年収の10〜30倍前後が借入可能額の目安です。ただし、融資額には上限があり、都心部にある大規模マンションの購入には対応しきれない場合があります。
また、アパートローンの金利は変動金利の場合が多く、金融機関によって1%〜4%程度と幅があるため、事前の確認が重要です。
プロパーローン(事業用融資)
プロパーローンとは、金融機関が独自の基準で投資資金を直接貸し出すローンのことです。
定型化されたアパートローンとは異なり、融資限度額に上限がないなどオーダーメイドのように金融機関によって内容が異なるのが最大の特徴です。
物件の収益性や事業計画次第で、5億円、10億円といった大規模な融資も可能になります。そのため、マンション一棟買いを行う投資家が利用しやすい融資形態です。
ただし、保証会社を介さずに金融機関が直接融資を行うため、審査のハードルは非常に高く設定されています。個人の年収に加え、事業の採算性や経営者としての資質が厳しく問われるでしょう。
審査にも時間がかかることが多いものの、承認されれば保証料が不要となるため、条件次第では1%以下の低金利で借りられる可能性があります。
政策金融公庫などの公的機関の事業用ローン
日本政策金融公庫(日本公庫)などの公的金融機関も、マンション経営を行う投資家向けに融資を行っています。
公的機関を利用する一番のメリットは、全期間固定の低金利融資が受けられる点です。民間の金融機関では難しい築古物件や、投資実績の少ない方でも相談しやすい傾向があります。
ただし、融資期間は一般的に10年〜20年と短めに設定されることがあるため注意しましょう。
期間が短いと毎月の返済額が大きくなり、キャッシュフローを圧迫するリスクがあります。新規開業・スタートアップ支援資金では、融資限度額は最大7,200万円となっており、一棟買いの場合は自己資金を増やすか、他の金融機関と合わせて融資を検討する必要があります。
参考:日本政策金融公庫|新規開業・スタートアップ支援資金
マンション一棟買いに必要な資金
近年、金融庁の方針により金融機関が不動産投資向けの融資に慎重な傾向です。自己資金をほとんど出さずに購入するフルローンやオーバーローンでは、一棟買いが難しくなっています。
そのため、ある程度の自己資金(頭金)が必要です。融資審査に通りやすくするためには、一般的に物件価格の10%〜20%程度の頭金を用意しておくとよいでしょう。
これに加え、不動産取得税や仲介手数料などの「諸費用」が物件価格の7%〜10%程度の費用がかかります。たとえば、1億円の中古マンションを購入する場合の自己資金の目安は以下のとおりです。
- 頭金(20%):2,000万円
- 諸費用(7%):700万円
- 必要自己資金合計:2,700万円
1億円の物件を購入するには、手元に約2,700万円〜3,000万円の現金が必要になります。一方で、個人の属性が極めて高い場合や、共同担保(他に所有する不動産を担保に入れること)があれば、頭金を抑えられることも可能です。
マンション一棟買いで利用できるローンの審査基準
金融機関が融資の可否を判断する際、主に見ているのは「貸したお金が確実に返ってくるか(返済能力)」と「万が一返済が滞った場合に回収できるか(保全)」の2点です。
区分マンション投資よりも融資額が大きくなる一棟買いでは、審査の目がより厳しくなります。ここでは、金融機関が重視する具体的な審査項目について解説します。
ローン申込者の属性
「属性」とは、申込者個人の社会的・経済的な信用力のことです。特にパッケージ型のアパートローンでは、この属性が審査の合否を大きく左右します。
属性は主に「年収」「勤務先・雇用形態」「勤続年数」「家族構成・居住形態」の4つに分類されます。
一棟買いの融資では、年収700万円以上が一つの目安です。年収が高いほど、空室や修繕費発生時に給与収入から補填できるため、返済能力が高いとみなされます。
勤務先・雇用形態は上場企業、公務員、士業(医師・弁護士など)の場合、解雇や倒産のリスクが低いため高く評価されます。 一方、自営業や歩合制の職種は収入が不安定とみなされることがあり、審査が厳しくなる傾向です。
勤続年数では同じ勤務先に長く勤めていることが重視されます。勤続年数が長いほど、収入の安定性が高いと判断されます。
家族構成や居住形態は、持ち家か賃貸か、扶養家族の人数など可処分所得を算出する上で確認される項目です。
物件の資産価値
一棟買いは融資額が大きいため、返済不能時に物件を売却して資金を回収できるよう、物件そのものの価値は厳密に審査されます。
ローンの評価方法は大きく分けて「積算評価」と「収益還元評価」の2つです。
積算評価(原価法)は、土地と建物の価値を別々に算出してから合算します。主に金融機関が不動産の担保価値を判断する際に重視される評価方法です。都心部の物件は土地の評価が小さい、または建物が古いと十分な積算評価が出ない場合があります。
収益還元評価(収益還元法)は、 家賃収入など物件が将来生み出す収益から価値を算出する方法です。都心部の物件は家賃が高いため、この評価方法で有利になることがあります。
金融機関は、上記の評価額と物件の購入価格を比較します。購入価格が評価額(担保価値)を大きく上回る場合は割高な物件と評価され、差額分は融資されないことがあるでしょう。
その他の資産状況
属性と物件価値に加え、申込者が保有している「金融資産」と「既存の借入状況」も重要な審査項目です。
金融資産(現預金・株式・証券など)では、頭金以外にどれだけの余剰資金を持っているか確認されます。賃貸経営では、突発的な修繕や原状回復費用が発生するため、これらの出費に耐えうる「流動性の高い資産」があることは大きなプラス材料です。
既存の借入状況は住宅ローン、カーローン、他の不動産投資ローンなどの借入総額が確認されます。年収に対する年間返済額の割合(返済比率)が高すぎると、新たな融資を受けるのが難しくなるかもしれません。
また、過去にローンの延滞や滞納などの金融事故歴がある場合も、融資を受けられない可能性が高くなります。
マンション一棟買いのローンで失敗しないポイント
マンション一棟買いは、成功すれば大きなキャッシュフローを生みますが、一歩間違えれば多額の借金を抱えるリスクがあります。
失敗する原因の多くは、「無理なローン設定」に起因します。長期にわたる返済を滞ることなく進め、利益を出し続けるために注意すべきポイントを解説します。
金融機関ごとに金利や条件を比較する
マンション一棟買いのローンでは、わずかな金利の差でも総返済額が数千万円単位で変わることがあります。
たとえば、1億円を返済期間30年で借りた場合、金利1.5%と2.5%では、約1,800万円もの差が生じます。この差はそのまま手取りの利益(キャッシュフロー)に直結します。そのため、金利だけでなく「融資期間」も重要になるのです。
不動産の法定耐用年数を超えて融資ができる銀行もあれば、厳格に制限している銀行もあります。ローンの期間が長いほど毎月の返済額は少なくなりますが、元金の減りは遅くなります。逆に、期間が短ければ返済負担は重くなりますが早期の完済が可能です。
借入を行う際は、都市銀行、地方銀行、信用金庫など、複数の金融機関で条件を比較することが不可欠です。ご自身の投資戦略に合った条件を選定しましょう。
返済負担額に余裕を持たせる
不動産投資で最も恐ろしいといわれるのが「資金ショート(黒字倒産)」です。
帳簿上で利益が出ていても、手元の現金がなくなればローンの返済はできません。ローンを組む際は、満室時の家賃収入だけでなく、空室率や金利上昇リスクを考慮した「返済比率」を設定する必要があります。
家賃収入に対するローン返済額の比率は50%以下が理想で、高くても60%以内に抑えるのが安全圏とされています。
変動金利で借りる場合、金利が1%以上上昇しても返済が継続できるかをシミュレーションしておくことが重要です。収支計画に余裕を持たせないと、一度の退去や修繕、金利のわずかな上昇で収支がマイナスに転落してしまう可能性があります。
不動産会社や税理士などの専門家に相談する
マンション一棟買いのローンは、融資額が大きくなるため、窓口での簡易な相談だけでは具体的に回答してもらえないケースがあります。
多くの金融機関では、物件の収益性や事業計画を重視して審査を行うので、一棟買いの取引実績がある不動産会社を通じて相談したほうが、事業計画を整理したうえで相談できるでしょう。信頼性の高い不動産会社であれば、物件や投資方針に合った金融機関を紹介してくれることもあります。
自身の属性や目標に合わせて最適な金融機関を選ぶことが、好条件で融資を引き出す近道です。出口戦略まで見据えたシミュレーションを行い、マンション一棟買いの投資を成功させましょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
鳥塚 正人
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