収益物件の査定書のポイントを解説。鑑定との違いや査定の種類も紹介
収益物件の査定書には、想定される売却価格だけでなく過去の売買事例など、価格の根拠になる情報が詰まっています。
収益物件の査定書の役割と基本的な読み方などを解説します。
この記事の目次
収益物件の査定書とは?基本を理解しよう
収益物件の売却の際に不動産会社へ査定を依頼すると、多くの場合「査定書」という書類が作成されます。査定書には物件の概要や周辺相場、家賃収入の状況、空室リスクなどを踏まえたうえで、想定される売却価格がどのように算出されたかが整理されています。
単に「いくらで売れそうか」という数字だけでなく、「なぜその価格になるのか」という根拠を確認できるため、オーナーが売却の方針やタイミングを判断するうえで重要な資料になります。
収益物件の売却における査定書の役割
収益物件の売却では、査定書は「価格の目安を知るための資料」であると同時に、「不動産会社の考え方や提案力を見極めるための資料」という役割も持ちます。
査定書には想定売却価格だけでなく、過去の売買事例や物件のメリット・デメリット、詳細情報、売り出す際の販売戦略などがまとめられます。これらを確認することで、「どの程度の価格帯で市場に受け入れられそうか」などの判断材料を得られます。
また同じ物件でも不動産会社ごとに査定書の構成や記載内容、価格に違いがあります。複数社の査定書を比較すると、「どの会社が収益物件に強いか」「どの会社がリスクや課題まで踏まえて説明してくれているか」といった点が見えやすくなり、売却を任せるパートナー選びにも活用できます。
査定書は単に金額が通知されるだけではなく、収益物件の現状を整理し販売戦略を考える土台となる重要な書類といえます。
査定方法の種類
収益物件の査定には「机上査定」と「訪問査定」の2種類があります。それぞれ情報量や精度が異なるため、目的に合わせて使い分けることが大切です。
机上査定は、住所や築年数、間取り、家賃などの基本情報と周辺の成約事例をもとに、おおまかな価格帯を出す方法です。短時間で結果が分かり、複数社の査定を比較しやすい一方で、建物の劣化具合や細かな立地条件までは反映されにくいという面があります。
訪問査定は、担当者が現地を確認したうえで価格を算出する方法です。建物や共用部の状態、周囲の環境、実際の管理状況なども踏まえた査定書を作成してもらえるため、実際の売り出し価格を検討するときには訪問査定まで進めておくと安心です。
査定価格の根拠
収益物件の査定価格は不動産会社の「勘」で決まるわけではなく、一定の手法とデータに基づいて算出されます。代表的なものが「取引事例比較法」と「収益還元法」です。
「取引事例比較法」は、実際に売買された類似物件の価格を参考にしながら、立地などを考慮して、妥当な価格帯を導き出す方法です。
一方「収益還元法」は物件が将来生み出すであろう収益をベースに価格を算出する手法で、納得性が高いと考えられています。
収益還元法には、簡便的で多くの不動産会社に利用される「直接還元法」と、複雑な算出方法が必要な「DCF法」があります。直接還元法は家賃収入から経費を除いた1年分の利益を還元利回り(投資利回り)で割ります。
査定書には、こうした手法の概要や前提条件が記載されているため、「どんな考え方でこの価格になっているのか」を意識しながら確認することが重要です。
収益物件を査定する際に用いられるチェック項目
収益物件の査定では、単に「場所」と「築年数」だけでなく、収益性や将来のリスクに関わる多くの項目が確認されます。
具体的には、駅や商業施設までの距離、周辺の賃貸需要といった立地条件、建物の構造や耐震性、共用部の管理状態、過去の修繕履歴などが代表的なチェックポイントです。
合わせて現在の賃料水準や入居率、空室期間の傾向、賃貸借契約の内容、滞納の有無なども収益性の判断材料になります。
管理費や修繕積立金、固定資産税、管理委託料といったランニングコストも含めて、「どのくらい手元に残る物件なのか」を総合的に見て査定価格が決まっていきます。
不動産会社ごとに査定書の金額が違う理由
同じ収益物件でも、不動産会社ごとに査定書の金額が違うことは珍しくありません。これは、各社が前提としている条件が異なるためです。
まず大きな要因として考えられるのが、査定方法の違いです。これまでにお伝えした「取引事例比較法」や「収益還元法」などが物件の目的や種類に応じて使い分けられたり、組み合わせて用いられるため、同じ物件でも不動産会社の査定額に差が生じます。
地域特性や得意な物件種別の違いも関係します。対象地域での取引事例が豊富な会社は、より精度の高い査定が期待できますし、得意分野が異なることで、同じ査定手法でも見立てに差が生じます。
会社ごとの営業姿勢でも査定額が変わります。例えばできるだけ高く売りたい売主には、高めの金額を提示し関心を引くケースがあります。
査定書を比較するときは、金額だけで優劣をつけるのではなく、「どのような根拠や前提でこの価格になっているのか」「説明に納得できるか」という視点で見ることが大切です。そのうえで、自分の方針に近い考え方をしている会社を売却のパートナーとして選ぶとよいでしょう。
収益物件の査定書の読み方
収益物件の査定書は情報量が多く、初めて見ると分かりづらく感じやすい書類です。ただ、すべてを細かく読む必要はなく、いくつかのポイントだけ押さえておけば「この価格にどんな意味があるのか」を判断しやすくなります。
ここでは、査定書で特に確認しておきたい項目を簡潔に整理します。
物件の概要や査定価格
交通手段や物件の構造、売却予想価格を確認できます。
類似物件の取引事例や担当者のコメント
査定するエリアにおける相場を確認できます。
担当者のコメントからは査定額の根拠、物件のメリットやデメリット、販売戦略を確認できます。
売却活動のスケジュールや諸費用
媒介契約から決済まで売却活動のスケジュールが確認できます。
ちなみに、不動産の仲介で売却した場合は売却益がすべて自分の利益になるわけではありません。仲介手数料などの諸費用が発生するため、差し引かれた手取り額が利益となります。
査定書でまず確認したい基本情報
査定書を発行してもらった後は、「想定売却価格」や「価格帯」が現在の賃料水準や周辺相場と比べて違和感がないかをチェックします。複数社の査定書がある場合は、特定の一社だけでなく、「だいたいどのレンジに収まっているか」という全体の傾向を見ると把握しやすくなります。
疑問や不明瞭な点があれば査定担当者に問い合わせましょう。
収益物件の査定を不動産会社に依頼するメリット
収益物件の価格を知る方法には、不動産鑑定士に依頼する「不動産鑑定評価書」と、不動産会社が作成する「査定書」があります。どちらも価格の目安を示す書類ですが、費用や目的、使われ方には違いがあります。
ここでは、不動産会社に査定を依頼するメリットや、会社選びのポイントを整理しておきましょう。
不動産鑑定評価書との違い
不動産鑑定評価書は、不動産鑑定士が法律に基づいて作成する正式な評価書で、裁判や相続、担保評価などにも使われる専門性の高い資料です。その分、作成には時間がかかり、数十万円規模の費用負担が発生することもあります。そのため「本当に必要な場面」を選んで依頼する性質のものです。
一方、不動産会社の査定書は、収益物件を売却したいオーナー向けに「市場でいくらくらいで売れそうか」を示すための資料で、多くの不動産会社が費用をかけずに利用できる無料サービスとして提供しています。
周辺相場や想定利回り、想定される買い手層などを、原則として料金負担なしで把握できるため、「まずは価格感だけ知りたい」「売却と保有のどちらがよいか迷っている」といった段階でも気軽に依頼しやすい点が大きなメリットです。
実務的には、まず不動産会社の無料査定でおおよその価格帯や売却戦略のイメージをつかみ、そのうえで相続や共有トラブルなど公的な場面で客観的な評価が必要な場合に、改めて不動産鑑定評価書の取得を検討する流れが一般的です。
また、不動産会社に売却を任せる際には、専属専任媒介 専任媒介 一般媒介のいずれかの媒介契約を結ぶことになります。それぞれの特徴やメリット・デメリットを丁寧に説明してくれる会社であれば、費用を抑えながら納得感のある売却を進めやすくなります。
不動産会社の選び方・比較方法
収益物件の査定書は「どの会社に売却を任せるか」を選ぶための材料でもあります。査定価格の高さだけで決めるのではなく、説明の分かりやすさや収益不動産への理解度を含めて比較することが大切です。
複数社から査定書を取り寄せたら、「価格の根拠が明確に示されているか」「収益物件ならではのリスクや強みについてコメントがあるか」といった点をチェックしましょう。打ち合わせの際に、売却戦略や想定される買い手について具体的な話が出るかどうかも判断材料になります。
査定価格の根拠が明確か
信頼できる不動産会社の査定書は、単に「◯◯万円」と金額だけが書かれているのではなく、どのような考え方でその価格に至ったのかが整理されています。根拠となる算出法が明記されているかなどをチェックしましょう。
複数社の査定書を比較する場合は「一番高い金額を出してくれた会社」だけを見るのではなく、「説明の筋が通っているか」「自分の疑問に丁寧に答えてくれるか」といった点も含めて判断するとよいでしょう。
収益不動産の売却が得意な会社に依頼する
収益物件の売却は、自宅の売却とはターゲットも重視されるポイントも異なります。そのため、投資用マンションやアパート、一棟物件などの「収益不動産の売買実績がある会社」を選ぶことが重要です。
過去の成約事例を見せてもらえるかや、投資家向けのネットワークを持っているかを確認してみてください。
収益不動産の売却に慣れた会社であれば、どの価格帯なら購入希望者が現れやすいか、どのような情報を開示すれば買い手に選ばれやすいかといった具体的な提案が期待できます。
結果として、売却までのスピードや条件面でも納得しやすいゴールにつながりやすくなります。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久
Other Articles
その他の記事を見る
一覧はコチラ
本コラムに関する注意事項
本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。本コラムは、その正確性や確実性を保証するものではありません。その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。いかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。