アパート経営で法人化するメリットとデメリットとは?検討すべきタイミングも解説
アパート経営で安定した利益を得ていると、「法人化したほうがいいのだろうか」と迷うことが増えてきます。税負担を抑えられる可能性がある一方、設立費用やランニングコストが増えるケースがあるため、慎重に判断すべきです。
実際、法人化は収益規模や事業方針によって判断が分かれます。個人経営と法人経営の違いを正しく理解し、自分のアパート経営にとって本当に適した選択を見極めましょう。
この記事の目次
アパート経営で法人化するタイミングはいつ?
個人経営から法人化することで、節税効果や事業運営上のメリットを得られます。しかし、アパート経営をしていれば、誰もが法人化したほうがいいというわけではありません。
アパート経営における法人化の概要や個人経営との違い、またどのタイミングで法人化するべきかについてわかりやすく解説します。
アパート経営における法人化とは
法人化とは、株式会社や合同会社といった法人格を設立し、個人から法人に事業の主体を移すことです。
個人事業では家賃収入がすべて個人の所得となりますが、法人化すると家賃収入が法人の収入となり、オーナーは役員報酬として給与を受け取る形になります。
アパート経営において、個人事業と法人化の基本的な違いを以下の表でまとめました。
| 項目 | 個人事業 | 法人化後 |
|---|---|---|
| 事業主体 | 個人 | 設立した法人 |
| 家賃収入 | 個人の不動産所得 | 法人の収入(賃料収入) |
| オーナーの収入 | 不動産所得(全額) | 役員報酬(給与) |
| 責任範囲 | 無限責任 ※事業上の債務についてすべての責任を負うこと |
有限責任 ※倒産したときに出資者が出資額の範囲内で負債の返済義務を負うこと |
法人は原則として有限責任となるため、事業上のリスクを切り分けやすい点も特徴です。一方、個人でアパート経営を行う場合、事業上の債務については、原則として所有者がすべての責任を負うことになります。
また、資金調達では個人経営に比べて法人のほうが事業を評価されやすく、金融機関との取引において有利に働く場合があります。
ただし、法人化するためには設立費用がかかるほか、毎年の決済や税務申告などの手続きが必要です。メリットとデメリットを十分に比較検討したうえで、法人化を検討するようにしましょう。
アパート経営で法人化するタイミング
法人化を検討すべきタイミングは主に2つあります。
- 不動産所得の金額が1,000万円以上の場合
- 所有する物件が増えた場合
どちらかに当てはまる場合は、法人化することでメリットを受けられる可能性が高まります。1つずつ見ていきましょう。
不動産所得が1,000万円以上あるとき
まず、アパート経営で得た家賃は原則として非課税です。国税庁でも非課税となる取引として、「契約において人の居住の用に供することが明らかにされているもの」と明記しています。
そのため、家賃収入が増えたとしても消費税の課税対象になるわけではありません。ただし、法人化の判断は消費税だけで決めるものではなく、所得税や住民税のほか、将来的な事業拡大や出口戦略など総合的に考えることが大切です。
個人の場合、所得税は累進課税制度により所得が高い人や資産が多い人ほど、税率が上昇します。一定の所得水準を超えると、最大で45%となる可能性があるため、利益が増えるほど税負担が重くなりやすい点には注意が必要です。
一方、法人化すると法人税・法人住民税・事業税を合算した税率は30%〜35%程度になるため、個人よりも税負担を抑えることが可能です。そのため、不動産所得が年間1,000万円以上の場合は、法人化を検討する一つの目安となるでしょう。
参考:国税庁「No.6201 非課税となる取引」
所有する物件数が増えてきたとき
アパート経営で法人化するタイミングの2つ目は、「所有する物件数が増えてきたとき」です。
保有物件数が増えると家賃収入も増え、前述した所得水準に達しやすくなります。
また、さらなる保有物件の拡大を目指す場合、法人化していた方が資金調達面で有利に働く傾向があります。銀行融資の審査において、法人は個人事業よりも社会的信用度が高く評価され、融資を受けやすくなるからです。
保有物件を増やし事業を拡大していく場合、法人化を検討したほうがいいでしょう。
アパート経営で法人化するメリット
アパート経営で法人化した場合、所得税や相続税などを節税することが可能です。
特に不動産所得が一定額を超える場合、個人事業から法人にすることで税負担を軽減できます。法人化するメリットについてより詳しく見ていきましょう。
所得税が節税しやすくなる
個人でアパート経営を行う場合、所得が増えるほど所得税の負担が重くなります。しかし、法人化することで所得税は法人税に変わります。
所得税と法人税は税率が異なるため、トータルとして税負担を抑えられる可能性があるのです。
個人事業主と法人経営で年間不動産所得が1,200万円の場合、所得税の節税効果を比較してみました。
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 適用税率(概算) | 33%〜40% | 23.2% |
| 年間税額 | 約396〜480万円 | 約278万円 |
| 節税効果 | 所得により低め | 高め |
個人事業主の場合、不動産所得の33%〜40%前後の税金が発生しますが、法人化すると23%程度まで抑えられます。実際の税額は控除や事業税などで変化しますが、最大200万円程度の節税効果が期待できるでしょう。
さらに、法人化すると家族や子供を法人の役員や従業員とすることで、役員報酬や給与として所得を分散できるケースもあります。
また、青色申告を行っている個人は3年間ですが、法人の場合は損失の繰越できる期間が10年間と長く設定されています。ただし、法人税には住民税や事業税も含まれるため、必ずしも税率が大きく下がるとは限りません。
事業承継がスムーズになる
個人で不動産を所有している場合、不動産を分割するのは困難なため事業承継でトラブルが発生するケースがあります。一方、法人化した場合の主なメリットは以下の通りです。
- 不動産を株式として分割できる
- 共有名義による管理のトラブルを回避しやすい
まず、法人化すると承継対象が「不動産」ではなく「株式」になります。株式であれば相続人ごとに分割しやすく、経営権や管理主体を維持したまま引き継ぐことが可能です。
さらに、不動産を共有名義で相続すると共有者全員の同意を得る場面が多く、修繕や管理面でトラブルとなりがちです。法人化して不動産を所有する場合、修繕や管理に関する意思決定は法人の経営判断として行われます。
相続人は株主という立場で間接的に関与する形となり、不動産の所有者は法人となるため結果的に判断が迅速になります。
このように、法人化は相続時の手続きや権利関係を整理しやすくする点で、事業承継を円滑に進められる方法といえるでしょう。
アパート経営で法人化するデメリット
法人化には多くのメリットがありますが、同時にデメリットやリスクも存在します。事前にこれらの課題を把握しておくことで、法人化するべきかより適切な判断ができます。
高額な初期費用がかかる
個人事業では物件があれば開業届を出すだけでアパート経営が可能ですが、法人化する場合、以下のようにさまざまな初期費用がかかります。
| 費用名 | 金額 |
|---|---|
| 登録免許税 | 株式会社は最低20万円、合同会社は最低6万円 |
| 定款認証費用 | 3〜5万円程度(株式会社のみ/電子定款の場合) |
| 定款用紙代(収入印紙代) | 約4万円(電子定款を利用する場合は0円) |
| 司法書士への依頼費用 | 10〜15万円程度 |
株式会社を設立する場合、トータルで30〜40万円程度の初期費用を見込んでおきましょう。
また、既に個人で所有している物件を法人名義に移転する場合は、不動産所得税や登録免許税が発生します。初期費用は物件価格によっては数百万円になることもあるため、法人化をする前に必ずシミュレーションを行いましょう。
法人運営を行うため経費が増加する
法人化した後は、個人事業では発生しなかったランニングコストが発生します。これらの費用が節税効果を上回らないよう注意が必要です。
法人運営に伴う主なランニングコストは以下のとおりです。
| 費用の内訳 | 年間の金額目安 |
|---|---|
| 法人住民税均等割 | 最低7万円 |
| 税理士顧問料 | 20〜70万円程度(依頼内容により異なる) |
| 社会保険料 | 給役員報酬額に応じて発生(法人は原則加入) |
個人事業であれば確定申告をすることで、赤字の年は所得税と住民税の負担を軽減できます。しかし、法人の場合、アパート経営が赤字であっても法人住民税の均等割りとして、最低でも年間7万円の税負担が生じてしまいます。
また、法人の決算申告は個人の確定申告と比べてより複雑になるため、税理士へ依頼するのが一般的です。この専門家への費用は、年間発生する継続的な負担として考慮すべきコストといえます。
法人化を検討する際は、不動産投資に詳しい税理士や不動産会社に相談することをおすすめします。具体的な収支シミュレーションを事前に行うことで、最適な判断ができるでしょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
鈴木 和典
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