アパートの家賃収入における所得税の仕組みと計算例 | その他の税金も解説
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アパートを経営していて一定額の家賃収入を得ると、確定申告を行う必要があります。家賃収入にかかる所得税の仕組みを理解していないと、想定外の負担におどろくことにもなりかねません。
アパートの家賃収入にかかる所得税の基本から具体的な計算方法、節税対策、さらに所得税以にかかる税金についても詳しく解説します。
この記事の目次
アパートの家賃収入にかかる所得税とは?
アパート経営で一定額の家賃収入を得ると、確定申告を行い所得税を納めなくてはなりません。
ここでは、
- 家賃収入にかかる所得税の概要
- 家賃収入にかかる所得税の計算方法
- アパートの賃貸経営における所得税のシミュレーション
について解説します。
家賃収入にかかる所得税の概要
所得税は、収入から収入を得るためにかかった必要経費を差し引いた「所得」に対してかかります。
所得は会社員の受け取る「給与所得」や退職金等の「退職所得」など、内容別に10種類に分かれており、アパートの家賃収入は不動産の貸付けによる「不動産所得」にあたります。専業大家で他の所得がなければ、所得は不動産所得のみです。
会社員として働きながらアパート経営をする場合など不動産所得以外にも所得がある場合は、各所得を合算して計算します(※)
(※土地・建物を売って得た所得や退職金などの一部の所得については、合算せずに他の所得と分けて課税される。)
家賃収入にかかる所得税の計算方法
次に、家賃収入にかかる所得税の計算方法を解説します。
1.不動産所得を計算する
アパートの家賃収入である不動産所得は、次の計算式で求められます。
不動産所得=総収入金額-必要経費
したがって、年間の家賃収入や更新料の合計が600万円で必要経費が300万円だった場合は、
不動産所得=600万円-300万円
=300万円
となります。
総収入金額に含めるものの例は次の通りです。
- 家賃収入
- 礼金
- 更新料
- 敷金や保証金のうち、借主に返さなくてよい部分
必要経費の例は次の通りです。
- 固定資産税
- 都市計画税
- 不動産取得税
- 修繕費
- 損害保険料
- 減価償却費
- ローンを利用している場合は借入金の利子(ローンの元本は必要経費になりません)
- 管理会社に支払う管理委託費
2.課税される所得を計算する
1で出した不動産所得金額のほかに他の所得があればそれも合算して総所得を計算し、そこから課税されなくてもよいもの(基礎控除や配偶者控除、社会保険料控除など)を差し引きます。
所得から控除を差し引いた後の金額が、課税所得金額です。
3.課税される所得金額に税率をかける
2で計算した課税所得金額に税率をかけて所得税額を計算します。税率は5%から45%の間で、所得金額が高くなるほど高い税率が適用されます。
税額を計算するときには、次の速算表を使います。
課税される所得金額・・・A | 税額 |
---|---|
195万円以下 | A×5% |
195万円超330万円以下 | A×10%-9万7,500円 |
330万円超695万円以下 | A×20%-42万7,500円 |
695万円超900万円以下 | A×23%-63万6,000円 |
900万円超1,800万円以下 | A×33%-153万6,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | A×40%-279万6,000円 |
4,000万円超 | A×45%-479万6,000円 |
※なお、令和7年分以降の所得税については「極めて高い水準の所得」には追加の課税がされる予定です。
参考:令和5年度税制改正の大綱の概要 : 財務省
アパートの賃貸経営における所得税のシミュレーション
具体的に、以下の条件で計算してみましょう。
【条件】
- 年間家賃収入:600万円
- 経費合計:300万円
- 所得控除(説明を簡略にするため基礎控除のみで計算):48万円
- 不動産所得以外の所得は0円
計算のプロセスは以下の通りです。
1.不動産所得を計算する
不動産所得=総収入金額-必要経費
=600万円 - 300万円=300万円
2.課税される所得を計算する
課税所得=不動産所得以外も含めた総所得-所得控除
=300万円 - 48万円=252万円
3.課税される所得金額に税率をかける
所得税額=課税所得金額×税率
=252万円×10%-9万7,500円(前述の速算表を使用)
=15万4,500円
したがって、この場合の所得税は15万4,500円になります。
アパートの家賃収入にかかる所得税を節税する方法
アパートの家賃収入にかかる所得税を節税する方法は次の2つです。
- 家賃収入から差し引ける必要経費を増やす
- 所得から差し引ける控除を増やす
経費と控除、このどちらかを増やせば所得金額が減るため税金も減ります。
そのための税金対策を5つ解説します。
減価償却費を計上する
建物の価値は新築時が一番高く、その後は年月とともに減少していくため、価値の減少分を必要経費にすることが可能です。
このことを「減価償却」といいます。
たとえば、木造のアパートなら22年間、減価償却費を経費計上できます。実際の支出がない状態で必要経費を増やせるため、節税効果を実感しやすいです。
青色申告特別控除を利用する
複式簿記にもとづいて取引を帳簿に記録し、それをもとに所得税を計算して申告することを「青色申告」といいます。
青色申告をすることによって、最大65万円が控除可能です。10部屋以上貸している場合は55万円の控除ができ、e-Taxによる申告または電子帳簿による保存を行うとプラス10万円控除できます。
10部屋以下の場合は10万円の控除が可能です。
式で書くと次のようになります。
不動産所得=総収入金額-必要経費-青色申告特別控除額
控除を増やせるため、税金が減ります。
参考:No.2072 青色申告特別控除|国税庁
青色事業専従者給与を計上する
通常、家族に支払った給与は必要経費にすることができませんが、青色申告なら要件を満たせば経費計上できます。これを「青色事業専従者給与」といいます。
必要経費を増やせるため、税金が減ります。税務署の実態調査があっても困らないように実際に家族に仕事をしてもらい、かつ給与額が仕事内容に見合うようにしてください。
参考:No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除|国税庁
損益通算を活用する
不動産所得で赤字が出た年に給与所得などの黒字があれば、そこから相殺して所得金額を減らすことが可能です。このように損失と利益を相殺することを「損益通算」といいます。
所得金額を減らせるため、税金が減ります。
参考:No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算|国税庁
修繕費を適切に計上する
アパートの通常の維持管理や修理のための支出は、「修繕費」といわれる必要経費になります。
しかし、アパートの資産価値を高めたり資産の使用期間を延長させたりするような修繕は「資本的支出」という名目に区分されるため、全額をその年の経費にすることはできません。
減価償却で何年かにわたって少しずつ経費になります。(例:設備を特に高性能なものに取り替える・避難階段を増設する。)
修繕費をその年の必要経費として計上する条件は次の通りです。
- おおむね3年以内の周期で行われる修理であること
- 金額が20万円未満の修理・改良であること
- 区分が明らかでない場合は、金額が60万円未満またはその資産の前年末の取得価額のおおむね10%相当額以下であること
修繕費を適切に計上することでその年の必要経費を増やせるため、税金が減ります。
なお、外壁塗装工事はおおむね10数年に一度の工事であり金額も高額ではあるものの、建物の維持管理に必要なことであるため資本的支出ではなく修繕費にあたります(※)
したがって、外壁塗装を行った年は必要経費を大きく増やすことが可能です。忘れずに計上しましょう。
参考:No.1379 修繕費とならないものの判定|国税庁
参考:修繕費 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
※鉄筋コンクリート造り店舗共同住宅の外壁等の補修工事に要した金員は修繕費に当たるとした事例(平成元年10月6日裁決)
アパートの家賃収入にかかる所得税以外の税金
アパート経営には所得税以外の税金も関係します。
アパートを経営しているときにかかる税金は次の5つです。
- 復興特別所得税
- 住民税
- 固定資産税・都市計画税
- 消費税
- 個人事業税
1つずつ解説します。
復興特別所得税
復興特別所得税は、東日本大震災の復興財源に充てられます。2037年までは所得税額の2.1%が追加で課税されます。
住民税
住民税は行政サービスの財源として、その年の1月1日現在で住所がある市区町村に納めます。
所得に応じて負担金額が変わる「所得割」と所得の金額にかかわらず定額の「均等割」で構成されています。
おおよその基準は所得割が所得税額の約10%、均等割が5,000円程度です。(基準をもとに、各都道府県や市区町村が税額を決めています)。
参考:地方税制度|個人住民税|総務省
固定資産税
固定資産税と都市計画税は土地・建物を保有している人にかかる税金で、不動産がある市町村に納めます。
都市計画税は、土地・建物が市街化区域にある場合に納めます。(都市計画税を課税していない市町村もあります)。
固定資産税と都市計画税の計算式は次の通りです。
- 固定資産税=固定資産税評価額をもとに決定された課税標準額×原則1.4%
- 都市計画税=固定資産税評価額×0.3%まで
(税率は市区町村の条例で定められるため、変わることがあります)。
参考:地方税制度|固定資産税|総務省
参考:地方税制度|都市計画税|総務省
消費税
不動産の取引では、消費税のかかる取引とかからない取引があります。
居住用のアパートを貸す行為は消費税がかからない取引です。ただし、店舗部分・事務所部分・駐車場部分の貸付けには消費税がかかります。
この部分の売上高が年間1,000万円を超える場合は、消費税の納税義務がある事業者になります。
参考:消費税のしくみ|国税庁
個人事業税
個人事業税は、一定の事業所得または不動産所得がある人が都道府県に納める税金です。
アパート経営の場合は10部屋以上だと事業的規模とされ、5%の事業税の課税対象になります。ただし、事業主の控除額が290万円であるため、所得が290万円以下なら個人事業税はかかりません。
個人事業税の計算式は次の通りです。
個人事業税=(不動産所得-290万円)×5%
以上の内容を参考に、アパートの家賃収入にかかる税金がいくらぐらいになるのか把握しておきましょう。
参考:個人事業税|仕事と税金|東京都主税局
参考:個人事業税|大阪府(おおさかふ)ホームページ
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久