アパートの買い替える際の特例をわかりやすく解説!押さえるべき条件と節税対策
アパートなどの賃貸物件は、要件を満たせば国が行う事業用不動産の買い換え特例を利用することができます。
買い替え特例を利用することで、アパートの買い替えを行うときに節税することが可能です。
しかし、オーナーの状況によって逆にリスクとなることもあるため、本記事では事業用不動産の買い換え特例の概要、利用するメリットとデメリットなど詳しく解説しています。
この記事の目次
アパートの買い替えに利用できる事業用不動産の買い換え特例とは
アパートなどの事業用不動産を売却し、一定期間内に新しい不動産へ買い替える際に利用できるのが、「事業用不動産の買い換え特例」です。
この特例を利用することで、事業用不動産の売却時にかかる課税の時期を先送りすることができます。
手元に現金を多く残すことができるので、アパートのオーナーにとって、大きな節税効果が期待できるでしょう。
ただし、買い替え特例を利用するためにはいくつかの条件や注意点があるため、事前にしっかり確認することが必要です。
事業用不動産の買い換え特例の概要
アパートなどの不動産を売却して利益(譲渡益)が出ると、通常はその利益に対して税金がかかります。
しかし、この買い替え特例を利用すれば、課税される税金の70〜80%を繰り延べる(先延ばしにする)ことが可能です。
買い替え特例を利用する注意点として、この制度はあくまで税金の支払いを後回しにするものであり、非課税にするわけではありません。
そのため、将来的に税金の支払いが発生することを覚えておきましょう。
売却する物件の要件
アパートを含む事業用不動産を売却するときの条件は、以下のとおりです。
- 国内にある事業用不動産であること
- 売却する年の1月1日時点で、所有期間が10年以上であること
- 工場、研究所、営業所、事務所、店舗、住宅などで使用されている不動産であること
- 令和8年(2026年)3月31日までに売却した不動産であること
- ほかの特例が適用されていないこと
買い替える物件の要件
買い替える不動産の条件は、以下のとおりです。
- 国内にある事業用の一定の土地等、建物または構築物であること
- 土地等については、その面積が300㎡以上のもの
- 取得する土地等の面積が、原則として譲渡した土地等の面積の5倍以内であること(5倍を超える部分は特例の対象外)
- 不動産を取得した日から1年以内に事業で使用すること
地域別の適用税率
事業用不動産の買い換え特例は、売却物件と買い替え物件の地域によって、適用税率が異なります。
具体的な税率は、以下のとおりです。
売却物件の地域 | 購入物件の地域 | 適用税率 |
---|---|---|
集中地域以外 | 集中地域以外 | 20% |
集中地域(東京都特別区以外) | 25% | |
集中地域(東京都特別区) | 30% | |
集中地域 | すべての地域 | 20% |
※集中地域とは、東京都特別区と武蔵野市、三鷹市、横浜市、川崎市、川口市、大阪市などの指定区域のこと
参考:国税庁|No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例
買い換え特例の計算方法
事業用不動産の買い換え特例の計算方法は、買い替えた物件の金額と売却する物件の金額によって計算方法が異なります。
まずは、売却金額が高いもしくは安い場合の計算方法を紹介します。
ケース①:売却金額 ≦ 買い替え物件の金額※課税割合が20パーセントの場合で計算
- 収入金額=売却金額 × 20%
- 必要経費=(売却物件の取得費 + 譲渡費用)× 20%
- 譲渡所得=収入金額 - 必要経費
ケース②:売却金額 > 買い替え物件の金額※課税割合が20パーセントの場合で計算
- 収入金額=売却金額 - 買い替え物件の金額 × 80%
- 必要経費=(売却物件の取得費 + 譲渡費用)×(収入金額 ÷ 売却金額)
- 譲渡所得=収入金額 - 必要経費
次に、具体的な金額を元にシミュレーションしてみましょう。
【前提条件】
売却物件の金額:1億円、売却物件の取得費用:5,000万円、譲渡費用:500万円
買い替え物件の金額:ケース①1億2000万円、ケース②8000万円
項目 | ケース①(1億2,000万円) | ケース②(8,000万円) |
---|---|---|
収入金額 (課税対象金額) |
1億円 × 0.2 = 2,000万円 | (1億円 – 8,000万円) × 0.8 = 1,600万円 |
必要経費 | (5,000万円 + 500万円) × 0.2 = 1,100万円 |
(5,000万円 + 500万円) × (1,600万円 ÷ 1億円) = 880万円 |
課税譲渡所得 | 2,000万円 – 1,100万円 = 900万円 | 1,600万円 – 880万円 = 720万円 |
税額 (課税割合20%の場合) |
180万円 | 144万円 |
上記の表のように、売却する物件よりも買い替える物件の金額が高い方が、課税される金額が大きいため、繰り延べ効果も大きいと言えます。
アパートの買い替えで事業用不動産の買い換え特例を利用するメリット・デメリット
事業用不動産の買い換え特例をうまく活用すれば、税負担を軽減しつつ、効率良く古いアパートを売却して新しい不動産の購入をすることが可能です。
一方で、制度の仕組みを十分に理解していないと、特例のメリットを活かしきれないまま手続きを進めてしまうリスクがあります。
ここでは、買い換え特例を利用する際の、メリットとデメリットをわかりやすく解説します。
メリット
事業用不動産の買い換え特例を利用する主なメリットは、以下の3つです。
- 譲渡所得税を先延ばしできる
- キャッシュフローを改善できる
- 効果的な資産の入れ替えができる
それぞれ詳しく解説していきます。
譲渡所得税を先延ばしできる
不動産売却で発生する「譲渡所得税」はオーナーにとって大きな負担となりますが、特例を活用することで、税金の支払いを先延ばしすることができます。
具体的には譲渡所得税の最大80%を繰り延べることができ、最長3年間まで課税を延長が可能です。
これにより、手元の資金を多く残すことができるので、税金の支払いにより資金繰りが悪化するのを防げます。
キャッシュフローを改善できる
キャッシュフローの悪化=運営資金が足りなくなるということですので、アパート経営自体が厳しくなることが考えられます。
一方、事業用不動産の買い換え特例を利用してキャッシュフローが安定すれば、新たな事業に取り組むこともできるでしょう。
効果的な資産の入れ替えができる
不動産を買い替えることにより、収益性や市場価値の低い物件から高い物件へ移行できるため、事業全体の安定性やリターンを向上させることも可能です。
また、地域リスクや物件タイプの分散も図れるため、事業リスクの軽減にもつながります。
古いアパートを売却して新しい賃貸物件に買い替えることで、賃料収入の向上や修繕費・維持費の削減も期待できます。
デメリット
事業用不動産の買い換え特例の主なデメリットは、以下の3つです。
- 税金の負担が大きくなることがある
- 条件があわないと特例を利用できない
- 提出書類が多い
税金の負担が大きくなることがある
事業用不動産の買い換え特例は、税金の支払いを先延ばしにするだけで、課税自体が免除されるわけではありません。
買い替え後の物件を売却する際に、繰り延べていた税金が課税されます。
減価償却費の減少による税負担が増加する
事業用不動産の買い換え特例を利用すると、減価償却費が少なく計算されます。
減価償却費とは、不動産や機械装置などは使用した年数によって価値が減少するため、資産が使用できる期間を購入額で割ることで正確に税金を計算することです。
事業用不動産の買い換え特例では、減価償却費を圧縮して計算しているため、毎年の減価償却費が減少します。
その結果、所得税などの課税が増えてしまい負担が重くなる可能性があるのです。
参考:国税庁|No.2100 減価償却のあらまし
5年以内の売却は高額課税のリスクがある
購入したアパートを5年以内に売却した場合、短期譲渡所得に分類されるため、最大39.63%の税金が課税されます。
結果的に買い替え特例を利用した場合より、税金負担が大きくなる場合があるので注意が必要です。
参考:国税庁|No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
物件取得条件が細かい
買い替え特例を利用するためには、売却するアパートの用途や地域、利用開始期限など、細かい条件を満たさなければなりません。
指定されている要件を満たせない場合、特例の適用が受けられない可能性があります。
提出書類が多い
買い替え特例の申請には、後述するようにいくつかの書類の提出が必要です。
買い替え物件の条件によっては、税務署に追加で書類を提出する必要があるため、税理士や不動産会社への相談をおすすめします。
アパートの買い替えで事業用不動産の買い換え特例を申請する方法
アパートの買い替えなど、事業用不動産の買い換え特例を利用する場合は、確定申告と事前の届出が必須です。
手続きを期限内に行わないと、特例が適用されないため注意しましょう。
事業用不動産の買い換え特例の申請方法
1.事前届出の提出
令和6年(2024年)4月1日以降にアパートなどの事業用不動産を売却し、新たな物件を取得する場合、特例を利用するためには事前に税務署への届け出が必要です。
この届出書には、特例を適用する方の氏名や住所、売却予定物件・取得予定物件の情報を記載します。
2.確定申告の実施
特例を適用するためには、確定申告の際に必要な書類の提出が必要です。
そのため、譲渡所得の計算明細書や、買い替えた物件の取得証明書類などを事前に準備しておきましょう。
確定申告の期限は、アパートなどを売却した年の翌年3月15日までです。
参考:国税庁 | 特定の事業用資産の買換えの特例の適用を受けるためには事前に届出が必要です
事業用不動産の買い換え特例に必要な書類
「事業用不動産の買い換え特例」の申請に必要な書類を表にまとめました。
提出書類 | 内容 |
---|---|
譲渡所得の内訳書 (確定申告書付表兼計算明細書) |
売却による利益を計算するための書類 |
買い替えた物件の証明書類 (登記事項証明書など※) |
買い替え物件の取得を証明するための書類 |
特例対象地域内の証明書 | 売却物件および買い替え物件が特例の適用対象地域にあることを証明する書類 |
※土地や建物の「不動産番号」を記載した明細書を提出することで、登記事項証明書の添付を省略することが可能
参考:国税庁|No.3405 事業用の資産を買い換えたときの特例
事前届出制度の注意点
令和6年4月1日以降、同一年内にアパートなどの事業用不動産を売却し、買い替えを行う場合は、特例の適用を受けるための届出が新たに必要になりました。
この届出書は、物件の売却日または買い替え物件の取得日のいずれか早い日を含む、「3カ月期間」の末日の翌日から2カ月以内に税務署長へ提出しなければなりません。
ただし、物件の売却が前年中で、買い替え物件を先に取得している場合や、物件の売却後に買い替え物件を取得する場合には、この届出は不要です。
法的な手続きはある程度知識が必要となるため、不安な方は専門家への相談も検討してみましょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
鈴木 和典
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