不動産投資
2024.08.29

賃貸経営で起きやすいトラブルとは?解決策や対処が難しい場合の選択肢を紹介

賃貸経営で起きやすいトラブルとは?解決策や対処が難しい場合の選択肢を紹介

賃貸経営では、入居者との間にさまざまなトラブルが発生する可能性があります。例えば、入居者に敷金の全額返金を迫られるケースや、家賃を何カ月も滞納され、支払いに応じてもらえないケースです。賃貸経営でよくあるトラブルの例や、その対処法を紹介します。

この記事の目次

賃貸経営で発生しやすい5つのトラブル

全国の消費生活センターには、賃貸住宅に関する相談が年間3万~4万件ほど寄せられています(※)。その相談内容は、敷金・保証金の返還から、退去時の原状回復、家賃の滞納をめぐるトラブルまで、多岐にわたっています。

※参考:国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)

賃貸経営をしている方は、入居者との間で起こり得るトラブルや対処法について知っておくことが大切です。そこで本記事では、賃貸経営で発生しやすい5つのトラブルと、対処法を紹介します。

賃貸経営で発生しやすいトラブルは、以下の通りです。

  • 入居者に敷金を全額返金するように請求された
  • 入居者に家賃の値下げ交渉を持ちかけられた
  • 入居者が家賃を何カ月も滞納している
  • 入居者の騒音や迷惑行為に対する苦情があった
  • 入居者が原状回復費用の請求に応じない

ここでは国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」に基づいて、入居者との間に起きる代表的なトラブルや、それぞれの解決策を紹介します。

1. 入居者に敷金を全額返金するように請求された

賃貸経営でよくあるトラブルの一つが、退去時に入居者から敷金の全額返金を迫られるケースです。

賃貸借契約によっては、償却特約や敷引特約などの特約により、アパートの修繕が必要な場合の経費の一部を敷金から差し引く契約になっている場合があります。こうした特約は、国土交通省の見解でも原則的に有効とされており、入居者からの返金要求に応じる必要はありません。

ただし、敷引金の額が補修費用として通常想定される額を大きく超えている場合は、消費者契約法10条により、敷引特約が無効になるという規範を示した最高裁判例も存在します。

国土交通省の「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」で示されている通り、家賃1カ月分程度の敷引であれば、特約自体は有効と見なされるのが一般的です。

2. 入居者に家賃の値下げ交渉を持ちかけられた

契約更新のタイミングなどで、入居者から家賃の値下げ交渉を持ちかけられる場合もあります。例えば、部屋によって家賃設定に差がある場合に、入居者が自分の部屋の家賃も下げるように要求してくるケースです。

賃貸借契約における賃料(家賃)は、当事者間の合意によって決めるものであり、法令上の基準などが決められているわけではありません。また賃料は個別事情を考慮し、賃貸借契約ごとに決められるため、必ずしも他の部屋の賃料に合わせる必要はありません。

ただし、近隣地域の物件と比較し、賃料が不相当と認められた場合、借主は借地借家法32条に基づき、賃料減額請求を行うことが可能です。賃料減額請求権が発生するケースとして、国土交通省は以下のような状況を挙げています。

  • 税等の負担の減少
  • 土地や建物の価格の低下、その他経済事情の変動
  • 近隣の同様の建物の賃借に比べて不相当となったとき

3. 入居者が家賃を何カ月も滞納している

賃貸住宅のオーナーの頭を悩ませるのが、入居者の家賃滞納をめぐるトラブルです。

家賃の滞納は、賃貸借契約における基本的な義務に違反する行為(債務不履行)です。そのため、入居者が家賃を何カ月も滞納しており、支払いに応じない場合、賃貸借契約の解除や建物の明渡しを求められます。

ただし、債務不履行による契約解除が認められるのは、“家賃滞納により借主との信頼関係が破壊されたといえる場合”のみです。どのくらいの期間、家賃を滞納すると信頼関係が破壊されたと見なされるのかは、一概にはいえず、個別事情によります。例えば、家賃滞納の程度や、家賃滞納に至った事情、過去の支払い状況、契約解除の意思を示したときの入居者の対応などを総合的に考慮して判断します。

入居者に連帯保証人がいる場合は、連帯保証人に未払い分の家賃を請求することも可能です。法律上、連帯保証人は借主と同等の責任を持つからです。

トラブルを防止するため、まず入居者に対して家賃の督促を行い、「借主が契約上の義務を果たさない」という事実を示してから、連帯債務の履行を求めるとよいでしょう。

4. 入居者の騒音や迷惑行為に対する苦情があった

アパートの住人から、入居者の騒音や迷惑行為に対する苦情があった場合、貸主は原因となる行為をやめさせる必要があります。民法601条において、貸主は“借主に対して建物を使用・収益させる義務”を負うからです。

例えば「隣の部屋の住人が、夜中の2時に大音量で音楽を聞いている」といった近隣トラブルに対しては、貸主から注意喚起を行うか、管理会社に対応を依頼するとよいでしょう。

一方、入居者の行為によって通常許容される範囲を超える被害が発生し、貸主と借主の信頼関係が破壊されたと認められる場合、賃貸借契約を解除できる可能性があります。

5. 入居者が原状回復費用の請求に応じない

原状回復費用の請求対象となるのは、“賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による消耗・毀損”です。

原状回復に要する費用は、入居者が負担しなければなりません。しかし、どこまでが「通常の使用」なのかをめぐって、入居者との間でトラブルになるケースがあります。

入居者が負担すべき費用については、国土交通省が2011年8月に再改訂した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」において、判断基準や事例が記載されています。

入居者が原状回復費用の支払いに応じない場合は、ガイドラインに基づいて話し合いを行うとよいでしょう。ただし、ガイドラインに法的拘束力はないため、費用の請求については、支払督促や訴訟、強制執行などの別の手段が必要です。

賃貸経営でよくあるトラブルへの対処法は?

入居者とのトラブルが発生したら、事実関係や契約内容を確認した上で、当事者間の話し合いによって解決を図るのが基本です。賃貸物件の管理業務を委託している場合は、管理会社に相談してみるのもよいでしょう。

それでも問題が解決しない場合、次のような対処法があります。

  • 裁判外紛争解決手続(ADR)を利用する
  • 民間賃貸住宅に関する相談窓口を利用する
  • 賃貸物件の売却を検討する

ADRとは、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家のサポートを受けながら、裁判外の手続きを通じて当事者間の合意を目指す方法です。費用や時間などの問題から、民事訴訟まで踏み切れない方におすすめの対処法です。

以下の表の通り、ADRは調停・あっせん、仲裁の2種類に分けられます。

ADR 特徴
調停・あっせん 当事者間の自主的な紛争解決のために、調停人、あっせん人が中立的な第三者として仲介し、トラブルの解決についての合意ができるように、話し合いや交渉を進め利害を調整する手続き
仲裁 当事者同士が紛争について第三者である仲裁人に判断を委ね、その判断に拘束されることを合意した上で(仲裁合意)進められる手続き

また国や地方自治体などの相談窓口を利用し、アドバイスを受けるのもよいでしょう。家主・オーナー向けの相談窓口には、以下のようなものがあります。

  • 公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会
  • 公益財団法人日本賃貸住宅管理業協会
  • 一般財団法人不動産適正取引推進機構など

賃貸経営のトラブルがあまりにも多く、紛争解決に時間や労力がかかっている場合、賃貸物件を売却するという選択肢もあります。アパートの売却は、信頼できる不動産会社と媒介契約を結び、購入希望者を探してもらう方法が一般的です。

アパートに入居者がいる場合は、そのままの状態で売却する「オーナーチェンジ」という方法も選べます。オーナーチェンジでの売却が可能な不動産会社を選べば、入居者に立ち退きを求める必要がありません。

この記事を書いた人

著者写真 TERAKO編集部
小田急不動産
横溝 浩由

誠実がモットー。これまでのお客様との出会いが投資不動産領域での私自身の見識を高めることに繋がっており、お客様への感謝を胸に、いかに皆様のお役に立てる情報を発信できるかが重要と思っております。こんなことをもっと知りたい等、お気軽にお声掛けいただけると嬉しいです。 著者の記事一覧はコチラ
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