アパート売却で譲渡所得税はかかる?計算方法や税金対策を丁寧に解説
譲渡所得税は、建物や土地といった不動産を売却した際に得られる売却益(譲渡益)にかかる税金です。アパートを高値で売却した場合、その売却益は譲渡所得とみなされ、一定の税率で課税されます。
売却のタイミングなどによっては、この譲渡所得税が高くなってしまうため、事前に対策しておきましょう。
この記事の目次
【前提】譲渡所得税は売却益が出たときのみ課税
譲渡所得税を支払う必要があるのは、売却益が発生したとき、つまり買ったときより高く売れたときです。
また、譲渡所得税が発生するのは個人のみです。法人の場合は「法人所得」となり、1年ごとの事業年度で計算されます。
取得費の考え方
譲渡所得税における「取得費」は物件価格と同義ではありません。物件を取得するためにかかった、以下のような諸費用が含まれます。
- 仲介手数料
- 土地や建物を購入したときに収めた登録免許税(登記料含む)
- 土地の造成費用
- 土地の測量費
ただし、不動産投資を行っており、「経費」として算入したものは取得費に含まれません。
また、取得費は減価償却費相当額を差し引いたあとの額が適用されます。減価償却費とは、財産の経年劣化により減少する価値を金額化したものです。
減価償却費相当額の計算方法については、のちほど詳しく紹介します。
譲渡益と譲渡費用
譲渡所得税を計算する際には、不動産の売却費である「譲渡益」に加え、「譲渡費用」という概念も重要です。譲渡費用とは、不動産を売却する際にかかった費用を指し、以下のような項目が含まれます。
- 仲介手数料
- 売主が負担した印紙税
- 借家人に支払った立ち退き料
- 土地を売却するために建物を取り壊した場合の取り壊し費用と建物の損失額
- すでに売買契約を締結している資産をさらに有利に売却する際に支払った違約金
損益通算
同年に所有しているほかの不動産を売却し、譲渡損が発生した場合は「損益通算」が可能です。
損益通算とは、特定の所得において赤字が発生した場合、ほかの所得の黒字と相殺できることです。
損益通算ができる所得には、以下の4種類があります。
譲渡所得 | 資産の譲渡により発生する所得 |
---|---|
不動産所得 | 土地や建物の貸付により発生する所得 |
事業所得 | 事業所を営むことにより発生する所得 |
山林所得 | 山林を伐採しての譲渡、もしくは立木のままで譲渡することで生まれる所得 |
たとえば、事業所得で300万円の黒字、不動産所得で100万円の赤字が発生した場合、-300万円と100万円を合算して、課税対象となる利益が200万円と計算されます。その結果、収める税金の額を抑えることができるのです。
ただし、損益通算のルールは細かく定められており、利用できないケースも少なくありません。
不動産の譲渡所得においても、損益通算は非常に限定的なものになっています。同じ不動産の譲渡所得としか損益通算ができないのです。
たとえば、同じ年に2件のアパートを売却し、一方が500万円の譲渡益、もう一方が300万円の譲渡損が発生したとします。その場合は、損益通算により不動産の譲渡所得における課税額は200万円となります。
しかし、アパートを売却して500万円の譲渡益、事業では300万円の損失が出たとしても、双方の損益通算はできません。
売却時期で変わる譲渡所得税!所有期間は5年超え?
譲渡所得でもう1つ注意したい点が、所有期間で税率が変わるという点です。この所有期間は譲渡した年の1月1日現在の所有期間で計算され、「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」の2種類に分かれます。
所有期間 | 税率 | ||||
---|---|---|---|---|---|
所得税(%) | 住民税(%) | 復興特別所得税※(%) | 計(%) | ||
短期譲渡 | 5年以下 | 30 | 9 | 0.63 | 39.63 |
長期譲渡 | 5年超 | 15 | 5 | 0.315 | 20.315 |
※復興特別所得税:平成25~令和19年まで、各年分の基準所得の2.1%を所得税と併せて納付する必要がある。
短期譲渡所得
短期譲渡所得は所有期間5年以下の場合に適用されます。税率は39.63%と、長期譲渡所得税の20.315%より高くなっています。
短期譲渡と長期譲渡に分けられた理由は、バブル期に活発化した土地の転売にあります。投機目的による短期間の土地の売買が増えたため、本来の土地利用ができない事態が発生しました。
そこで、短期間で不動産を売却する際には高い税率が適用されるようになったのです。
長期譲渡所得
長期譲渡所得は所有期間5年超の場合に適用されます。注意点は、5年「以上」ではないことです。ちょうど5年だった場合は短期譲渡所得に該当します。
所有期間が5年を超えると、譲渡所得税は約半分になります。これは一種の優遇制度です。資産の不要な売り買いを抑制するため、長期で持っていた人が売却する際には、税率を低く抑えているというわけです。
譲渡所得税の算出方法
譲渡所得税は、以下のように計算できます。
{(譲渡価額)-(取得費+譲渡費用)}×税率
具体例を挙げながら譲渡所得税を実際に計算してみましょう。
- 取得日:2024年1月1日
- 建物の種別:区分マンション
- 建物の用途:事業用(賃貸)
- 構造:SRC造
- 築年数:新築
- 取得総額:6,000万円(うち建物分3,600万円)
上記の建物について、以下のような条件で売却したとします。
条件A 売却日:2027年1月1日(3年目で売却) 売却額:6,500万円 譲渡費用:100万円 |
条件B 売却日:2034年1月1日(10年目で売却) 売却額:5,500万円 譲渡費用:100万円 |
条件A、Bにおける譲渡税を算出しましょう。まずは減価償却費相当額を計算します。計算式は以下のとおりです。
減価償却相当額=建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数
事業用不動産におけるSRC造の償却率は0.022%のため、以下のように計算されます。
条件A:3,600万円×0.9×0.022×3年=213万8,400円
条件B:3,600万円×0.9×0.022×10年=712万8,000円
上記の建物における減価償却相当額を、土地を含む取得総額から差し引きます。
条件A:6,000万円-213万8,400円≒約5,786万2,000円
条件B:6,000万円-712万8,000円≒5,287万2,000円
上記を譲渡所得税={(譲渡価額)-(取得費+譲渡費用)}×税率の計算式に当てはめてみましょう。
条件A:{6,500万円-(約5,786万2,000円+100万円)}×39.63%≒約243万円
条件B:{5,500万円-(5,287万2,000円+100万円)}×20.315%≒約22万9,000円
条件Aのほうが売却益は高いですが、所有期間は3年であり短期譲渡税率が適用されます。そのため納付すべき税が高くなり、売却益を圧迫してしまっています。
物件を売却する際には、売却額だけではなく所有期間も意識する必要があるでしょう。
※上記の計算方法は2024年4月現在のものです。法改正などにより変更になる場合があります。
譲渡所得税を少なくする方法
譲渡所得税を少なくするには、長期譲渡を意識することです。しかしそれ以外の方法で、譲渡所得税を少なくする方法はあるのでしょうか。
押さえておくべきポイントを紹介します。
取得費を正確に申告する
取得費は正確に申告しましょう。費用が多くなればそれだけ譲渡所得が少なくなるため、譲渡所得税を圧縮できます。
取得費が不明な場合は、譲渡価額の5%を「概算取得費」とし、それを用いて計算します。概算取得費はほとんどのケースで本来の取得費より小さな額のため、譲渡所得が多くなってしまいます。
購入時の売買契約書など、取得費が正確に分かる資料を用意しましょう。
事業用不動産の買換えの特例を利用する
賃貸業をしている場合に利用できる制度が、「事業用不動産の買換え特例」です。この特例は、賃貸アパートやマンションなどの事業用不動産を、事業目的で特定の資産に買い換える際、一定の条件を満たすことで譲渡税の一部が繰り延べできるというものです。
対象となる資産は土地や住宅だけではなく、駐車場や倉庫といった建築物も含まれます。また、譲渡資産と買換資産の種別が同じである必要もありません。「駐車場を売ってアパートを購入する」というケースでも利用可能です。
課税の繰り延べ割合は、譲渡資産の譲渡価額と買換資産の取得価額の大小で変わりますが、60~90%が目安です。
納税のタイミングが遅くなるだけで非課税になるわけではありませんが、支出の多くなる買換えの年に納税額を少なくできるため、可能であれば利用するとよいでしょう。
なお、買換え特例は譲渡資産と買取資産の組み合わせにより数多くのパターンがあり、それぞれにおいて条件があります。詳細は国税庁のホームページで確認してください。
特別控除を利用する
条件によっては、譲渡所得に適用される特別控除を利用できます。
マイホームや土地に関係するものが多いため、事業用不動産では利用しにくいものが多いのですが、該当する場合は必ず申告しましょう。控除を受けることで、納税額を圧縮できます。
条件 | 控除額(万円) | 事業用不動産での利用 |
---|---|---|
公共事業のために土地や建物を売却する | 5,000 | ○ |
居住用財産を売却する | 3,000 | × |
特定土地区画整理事業などのために土地を売却する | 2,000 | ○ |
特定住宅地造成事業などのために土地を売却する | 1,500 | ○ |
平成21年、22年に取得した国内の土地を売却する | 1,000 | ○ |
農地保有の合理化などのために土地を売却する | 800 | × |
低未利用土地などを売却する | 100 | × |
なお、控除額が発生する場合の計算法は以下のようになります。
{(譲渡価額)-(取得費+譲渡費用)}-特別控除×税率
計算後の譲渡税額から差し引くのではなく、課税譲渡所得金額から控除し、その後税率をかけるという点に注意しましょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
横溝 浩由
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