アパート経営の相続を放棄したい!どうすればよい?デメリットは?
相続できる財産はすべてがプラスとは限らず、なかにはマイナスの財産もあります。もし、相続財産のなかに経営するアパートがある場合、どうしたらよいのでしょうか。もし赤字経営であれば、放棄したいと思う人もいるでしょう。
アパート経営の相続放棄をするには、どうすればよいのでしょうか。相続放棄について、基礎知識から手続きまでわかりやすく解説します。
この記事の目次
アパート経営の相続放棄は可能?
アパート経営をしていた親や親族が亡くなると、相続人にアパートが相続されます。アパート経営と聞くと、「家賃収入で生活できる」とポジティブなイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、アパート経営は収益性の高い物件ばかりでなく、なかには老朽化の激しいアパートや負債のあるアパートも多いのです。そのため、アパート相続のトラブルは少なくありません。
それでは、アパートを相続したくないときは、どうしたらよいのでしょうか。また、アパート経営は相続放棄できるのでしょうか。
結論からいうと、アパート経営は相続放棄ができます。ただし、相続放棄には注意点があります。相続放棄をする際の注意点や、相続放棄のメリット・デメリットなどについて解説します。
アパート経営の相続放棄はできる!ただし…
アパート経営は相続放棄できますが、相続放棄をするとそのほかの財産もすべてを放棄することになります。
たとえば、預貯金や株式だけ相続して、マイナス資産であるアパートだけ放棄するといったことはできません。なお、複数人でアパートを相続していた場合、相続放棄は単独で自由に行えます。自分が相続放棄をすれば、アパートはほかの相続人が相続することになります。
ただし、相続問題はトラブルに発展しやすいため、相続放棄をする場合は事前にほかの相続者へ相談しておいたほうがよいでしょう。
相続放棄とは
そもそも相続放棄とは、どのような手続きなのでしょうか。裁判所は、相続放棄について次のように記しています。
【相続放棄の申述とは】
相続放棄とは、相続人が、被相続人(亡くなった方)の権利や義務の一切を相続しない選択をすることをいいます。相続放棄をするためには、自己のために相続の開始を知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をしなければなりません。(以下省略)
旭川家庭裁判所「相続放棄の申述について」(PDF)
相続放棄をすると一切の権利や義務を相続しないことになります。つまり、プラスの財産、マイナスの財産すべてにおいて相続ができません。
また、相続放棄には期限が設けられており、相続の開始を知ったときから3カ月以内に相続放棄の手続きを行う必要があります。もし、3カ月以内に相続放棄の手続きを行わなかった場合には、相続を承認したとみなされ財産のすべてを相続することになります。
一度相続すると取り消すことはできません。これは大変重要な内容ですので、忘れずに覚えておきましょう。
相続放棄のメリット
相続放棄をするメリットは、「亡くなった人の借金や負債を相続しなくて済む」ことです。たとえば、相続したアパートの売却価格がローン返済額を上回れば、資産価値がプラスになります。
ところが、アパートの売却価格がローン返済額を下回った場合は資産価値がマイナスとなり、相続人は大きな損失を背負うことになります。このような事態を避けるには、相続放棄は有効な手段です。
また、相続問題は家族間でトラブル発展するケースが多く、日常生活にも影響を与えます。お金の問題は大きな確執になりかねないため、相続放棄をすることでストレスや金銭トラブルを防ぐことにもつながります。
相続放棄のデメリット
相続放棄で考えられるデメリットは、プラスの財産も含めたすべての財産を放棄する点です。特に注意したいのは不動産相続で、一見マイナス資産が多いアパートの場合でも立地条件がよければプラスになる可能性もあります。
不動産相続は難しい内容も多く、一般人が判断するのは困難なケースも多いです。そのため、不動産会社や弁護士など専門家のアドバイスを聞きながら慎重に検討することをおすすめします。
誰も相続する人がいなくなるとどうなる?
すべての相続人が相続放棄をした場合、「相続人の不存在」という扱いになります。被相続人(亡くなった人)の遺言があればそれにしたがいますが、遺言がない場合は、特別縁故者に分与される、または最終的には国のものとして国庫へ帰属します。
国庫に帰属するには、さまざまな手続きが必要となるため、ある程度の時間が必要になるでしょう。
どうすれば放棄できる?相続放棄の手続き
相続放棄をするには、家庭裁判所での申告手続きが必要です。また、相続放棄には期限があり、被相続人が亡くなってから3カ月以内に手続きを行わなくてはなりません。
所定の手続きを期限以内に行わない場合、相続放棄が認められなくなるおそれがあるため注意が必要です。それでは、相続放棄の流れを見ていきましょう。
- 遺言書の確認・財産を調べる
- 必要書類を集める
- 相続放棄申述書を作成する
- 裁判所へ提出する
- 相続放棄申述受理書の到着
相続放棄は一度行うと、取り消しができません。したがって相続するか、相続放棄をするかは慎重に判断しましょう。ここからは、相続放棄の手続きについて項目ごとに解説します。
遺言書の確認・相続財産を調べる
故人が遺言書を残している場合、その内容に沿って財産分与を行います。そのため、まずは遺言書の有無や内容を確認しましょう。
次に、相続財産を調べます。相続放棄をする場合は、相続財産を把握していることが前提になるため、次の財産は必ず調査しましょう。
確認事項 | 調べ方 | 目的 |
---|---|---|
預金口座、証券口座 | 通帳記帳を確認する、金融機関や証券会社に問い合わせる | 金銭の動き、株の配当金、家賃収入、借金などを把握するため |
登記識別情報 | 法務局で取得する | 故人の家の名義人を確認するため |
固定資産評価証明書 | 市町村役場の窓口で取得 | 所有している不動産の資産価値を確認するため |
財産調査は入念な調査が必要になるため、弁護士や行政書士、司法書士などの専門家に依頼するのもおすすめです。
必要書類を集める
相続放棄の必要書類には、次のようなものがあります。
- 相続放棄申述書
- 故人の住民票除票もしくは戸籍附票
- 相続放棄をする人(申立人)の戸籍謄本
- 収入印紙(800円)
- 切手
相続放棄は「誰が申し立てているか」によって必要書類が異なります。詳しくは裁判所「相続放棄の申述に必要な書類」(PDF)をご確認ください。
相続放棄申述書を作成する
相続放棄申述書とは、相続放棄を裁判所に申し出るための書類です。申述書のひな型は、裁判所のWebサイトからダウンロードできます。
裁判所のWebサイトには申述書の記入例もありますので、参考にしながら申述書を完成させましょう。申述書の左上に、必ず収入印紙(800円)を貼付してください。
裁判所へ提出する
相続人放棄申述書と必要書類を準備したら、家庭裁判所に提出します。提出先は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
提出方法は、直接持参するだけでなく、郵送でも問題ありません。しかし、万が一の紛失や郵送事故に備えて、追跡サービスがついた郵送方法(レターパックなど)を推奨します。また郵送の場合、返送用切手の予納が必要です。切手の金額は裁判所によって異なるため、あらかじめ家庭裁判所へ確認しておきましょう。
照会書の回答・相続放棄申述受理書の到着
相続放棄の申し立て後、7~10日後に相続放棄に関する照会書が到着します。照会書には回答を記入する欄があるため、必要事項を記入し家庭裁判所へ返送しましょう。
照会書を返送してから数日後、相続放棄が認められたら「相続放棄申述受理書」が到着します。これで相続放棄の手続きは終了です。相続放棄は事前準備や知識が必要なため、不安な方や忙しい方は弁護士や専門家に依頼しましょう。
相続?放棄?判断するポイント
突然親が亡くなり、アパートや不動産を相続した場合「相続するべき?破棄するべき?」と判断に迷う人も少なくありません。
相続放棄は、一度相続放棄を申請すると取り消しはできません。そのため、資産状況をきちんと把握して相続するか、放棄するか慎重に検討する必要があります。アパート相続で失敗しないための、判断ポイントについて解説します。
毎月の収支が赤字
毎月の収支が赤字の場合や、空室が続いているアパートには注意が必要です。アパート経営は、ローン返済や固定資産税の支払いを考慮したうえで、毎月の収支がプラスになっていることが最低条件です。
また、現入居者が家賃滞納をしていないかも、忘れずにチェックしましょう。アパート経営において家賃滞納は大きなリスクとなります。万が一裁判になれば、オーナー側の費用負担も大きく、余計な労力がかかるでしょう。したがって毎月の収支、家賃滞納などの現状をしっかりと把握することが大切です。
アパートローンの残債が多い
毎月の収支が安定している場合でも、ローン残債が多すぎる場合は気をつけましょう。築年数の浅いアパートであれば、数年間は安定した家賃収入が期待できます。しかし、建物が老朽化すると、空室が目立ってきたり、賃料の減額を検討したりする必要が考えられます。
また、アパート経営を維持するために、リフォームや建て替え、修繕工事が必要です。そのため、アパート経営では、数十年先を見据えた資金計画や運用計画が重要で、収支の変化に対応できる返済力を見極める必要があります。
大規模修繕の時期が近い
修繕内容にもよりますが、外壁補修や給排水の交換など大規模修繕は5~10年に一度行うのが一般的です。毎月の家賃収入がプラスでも、大規模修繕によって経営が赤字になるおそれもあるため、大規模修繕のタイミングには注意しましょう。
大規模修繕計画書や修繕履歴で、過去の修繕について確認できます。相続を検討する際は、いつ、どのような修繕工事が発生するのか、費用はどのくらいかかるのか事前に確認しておくことが大切です。
売却できる可能性がある
アパートを相続するか、放棄するか判断に迷っているときは、まず不動産会社に査定をしてもらうことをおすすめします。査定の結果、売却してもあまり利益が出ない場合は、相続放棄を検討するのもよいでしょう。
また、立地がよいアパートや利益が出ているアパートは売却できる可能性があります。売却するときは、オーナーチェンジとして売却するか、全室空室にした状態で売却するかふたつの方法から選択します。全室空室にした状態で売却するには、入居者を立ち退かせる必要があるため難しい場合もあるでしょう。一方、オーナーチェンジは入居者がいる状態で売却可能なため、買主が見つかればすぐに売却できます。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久
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