築30年のアパートを相続するときに確認しておきたい3つのポイント
築30年を超えるアパートを相続する場合、将来的な収益性や維持費、相続税など、様々な課題を考慮する必要があります。安易に相続すると、金銭的な負担が大きくなるおそれがあります。
築30年のアパートを相続する際に確認しておきたい3つのポイントを解説します。相続後のスムーズな手続きと、将来的なリスク回避のために、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
確認ポイント1:アパートの経営状況
アパートを相続するときに確認しておきたいのが、アパートの経営状況です。アパートのような収益物件を相続すれば、毎月安定した家賃収入を得られる可能性があります。
しかし、築30年のアパートとなると、設備の修繕が必要であったり、入居率が低かったり、入居者が家賃滞納をしていたりと、相続すると金銭的な負担が増える場合があります。
また、被相続人が中古のアパートを購入していた場合、築30年であっても高額なアパートローンが残っていることもあるでしょう。そのため、アパートの相続が発生したときは経営状況を確認して、内容によっては相続放棄をする判断も必要です。
アパートの相続が発生したときは、以下の3点を重点的に確認しておくことをおすすめします。
- アパートローンの返済状況
- 修繕履歴
- 入居者の情報
それぞれについて確認しておきましょう。
アパートローンの返済状況
アパートを相続するときは、アパートローンの残債を確認しておきましょう。一般的にアパートをローンで購入する場合、団信(団体信用生命保険)に加入します。そのため、被相続人が亡くなると、保険金からアパートローンの残債が支払われるため完済となります。
しかし、団信に加入していない場合、アパートの相続人に残債を一括で請求される場合があります。金融機関に相談して新たにアパートローンを組める可能性がありますが、返済の負担が大きくなることもあるため、慎重な判断が必要です。
また、アパートローンの残債があるアパートを相続した場合、オーバーローンの状態であれば売却ができません。オーバーローンとは、不動産の資産価値が住宅ローンの借入額よりも低い状態を指します。
アパートローンが残っているアパートを相続するときは、負担が大きくなる場合があるため、残債の有無や、アパートの資産価値などを確認しておきましょう。
修繕履歴
次に確認したいのがアパートの修繕履歴です。築30年のアパートは、屋根や外壁、水回りなどの設備が経年劣化している場合があります。30年間全くメンテナンスをしていないと、相続したあとに高額な修繕費がかかるおそれがあり、家賃収入よりも支出が増えることがあります。
そのようなリスクを避けるため、いつどのような修繕を行ったのかを把握する必要があります。
修繕内容は、雨漏り修繕、給湯器の設置年数、白アリ駆除記録など確認すべき項目がたくさんあります。特に、物件の寿命が左右される外壁と屋根の塗装の実施履歴が10年以上なければ、早急に調査し、必要に応じて実施しておきましょう。
修繕の実施有無内容によっても家賃設定が変わってきます。以下の通り、修繕履歴のチェック項目を簡単にまとめましたので、ご活用ください。
- シロアリ駆除
- 傾きの調査
- 雨漏り修繕
- 躯体のひび割れ
- 給排水管の劣化
- 給湯器、換気扇など設備の入替
- 外壁と屋根の塗装
入居者の情報
相続するアパートの入居者の情報を確認しておくことも重要です。属性、家族構成、家賃額、更新時期、預かり預金の金額、家賃滞納の有無など、経営するうえでは必要な情報です。
たとえば、被相続人が入居者と積極的にコミュニケーションを取っていた場合は、相続人になる方も入居者の情報を常にヒアリングできる体制を取っておくといいでしょう。
また、空室率も併せて確認しておくことをおすすめします。経営を引き継いでいこうと思っても、空室率が70%だとしたら、赤字経営に陥るリスクがあります。
空室率はアパート経営を相続するかどうか判断するうえで重要な指標です。このように、入居者の情報を確認することが空室率の把握にも繋がるので、相続前に必ず確認しておきましょう。
確認ポイント2:相続税
アパートの経営状況を把握して相続することになったら、次に確認したいのが相続税です。一定の価値以上の遺産を相続した場合、相続税がかかります。築30年のアパートであっても同様に、一定の価値があれば高ければ相続税を納めなければいけません。
なお、相続税の納付期限は、相続発生から10ヶ月以内です。
築30年のアパートにかかる相続税
築30年のアパートを相続する際、相続税がかかる場合があります。
支払うべき相続税はいくらになるのか計算しておけば、おおよそどれぐらいの相続税を支払えばいいか準備ができます。それでは、相続税はどのように計算するのでしょうか。
まず、アパートの相続税計算については、前提条件として、土地と建物の相続税評価額は別々に評価されます。建物、土地の相続税評価額の計算方法は以下の通りです。
対象 | 計算方法 |
---|---|
建物の相続税評価額 | 固定資産税評価額×( 1-借家権割合(0.3)×賃貸割合) |
土地の相続税評価額 | 土地の評価額×(1-借地権割合(地域によって定められている)×借家権割合(0.3)×賃貸割合) |
借地権割合は地域によって30~90%で定められており、路線価図で確認できます。賃貸割合は、貸している部分の床面積の割合です。
たとえば、建物部分の固定資産税評価額が5,000万円、部屋の床面積の合計が200㎡、貸している部分が50㎡とすると、賃貸割合が50㎡割る200㎡で25%となります。建物部分の相続税評価額は、5,000万円×(1-0.3)×25%=875万円です。
相続税は遺産の合計から基礎控除額を差し引いた分が課税対象になる
相続税は、被相続人の遺産の合計から基礎控除額を差し引いたものに対してかかります。基礎控除額とは、相続税を計算する際に無条件で控除できる非課税枠のことで以下の計算式で求めます。
たとえば、相続人が配偶者と子2人の3人だった場合の基礎控除額は4,800万円です。遺産の合計額が4,800万円以下であれば相続税はかかりません。確定申告も不要です。
基礎控除額を差し引いて残った分は、金額に応じた税率の相続税がかかります。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率(%) | 控除額(円) |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10 | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15 | 50万 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20 | 200万 |
5,000万円超から1億円以下 | 30 | 700万 |
1億円超から2億円以下 | 40 | 1,700万 |
2億円超から3億円以下 | 45 | 2,700万 |
3億円超から6億円以下 | 50 | 4,200万 |
6億円超 | 55 | 7,200万 |
引用:国税庁「No.4155相続税の税率」
たとえば、遺産から基礎控除額を差し引いたものが500万円だった場合の計算式は500万円×10%となり、50万円が相続税です。
なお、ここからさらに特例などを適用することで相続税を抑えられます。
相続登記は2024年4月から義務化
2024年4月から、不動産登記法改正により、相続登記が義務化されます。相続登記とは、被相続人から不動産を相続した際に不動産の名義変更が確実に必要になる、という内容です。
今までは相続登記について法的なルールがありませんでした。相続登記が義務化されることで、「相続の開始及び所有権を取得したと知った日から3年以内」という具体的な期限が定められました。
相続登記をしなかった場合は10万円以下の罰金を求められる可能性があります。アパートを相続する方は、相続登記は忘れずに対応しましょう。
負担が大きければ相続放棄も検討する
アパートの資産価値が著しく低い場合は、相続放棄を検討する選択肢もあります。相続放棄とは、相続人が被相続人の財産の全てを放棄することを指します。
相続放棄をするためには、家庭裁判所に被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内に申し立てをする必要があります。あまりにもオーバーローンの状態がひどく負担が大きいのであれば、マイナスの資産を相続することを避ける相続放棄をすることをおすすめします。
確認ポイント3:アパートを相続したあとの運営方法
3つ目の確認ポイントは、アパートを相続した後の運営方法をどのようにするのか決めておくことです。アパートを相続した後に運営することで決断した場合、以下のいずれかの選択になります。
- 相続人が運営する
- 運営会社に依頼する
今までアパート経営の経験や、被相続人からある程度引き継ぎを受けている状態の場合、ご自身で運営できます。経験がない方は難易度が高いため、運営会社に依頼するという方法も検討しておきましょう。
相続人が運営する
築年数が30年以上の古いアパートを経営するには、ある程度の知識と経験が必要です。築年数が古いアパートは、建物や設備の不具合が発生しやすいためです。また、長年住んでいる高齢の居住者がいる場合、孤独死、認知症による事故やケガが発生するリスクがあります。
ただし、相続人がアパート経営をすることで、運営会社に委託する費用などがかからないため、収入を増やせる可能性があります。
運営会社に依頼する
ご自身で運営する自信がない方は、運営会社に管理を依頼することをおすすめします。ただし、いろんな運営会社が存在しており、どこに依頼すればいいか分からない、という方が多いでしょう。
その場合、以下のような判断基準で運営会社を選ぶと安心してアパート経営をお任せできるでしょう。
空室対策に効果があるリフォームを提案してくれる
築年数の経過した物件では、建物や室内のきれいさ、新しさを見る傾向があり、見た目が重要です。集客にノウハウのある管理会社であれば、コストを最小限に抑えつつも空室対策に効果のあるリフォーム内容を提案してくれるでしょう。
そのエリアに詳しい会社
そのエリアに詳しい管理会社であれば、お客様との関係性構築に好影響を与えます。そのエリアの情報をたくさん持っていることで安心感が生まれ、結果として空室率ダウンに貢献します。
付加価値を与える提案をしてくれる会社
築年数が経過した不動産は、空室率を下げるために家賃の値下げを提案してくる管理会社がほとんどです。その中で、上記で紹介したリフォームや人気設備の導入、提案をすることで建物の価値を高めていき、家賃の値上げをする管理会社が理想的と言えるでしょう。実際に、家賃18万だった物件を20万に値上げできた例もあります。
値上げの成功要因は、エアコンの入れ替えです。その年は稀に見ぬ猛暑の年で、かつエアコンの品薄が続いていた時期でした。建物自体の築年数は古かったのですが、エアコンの年式を最新版にしたことで、物件の付加価値が高まったのです。このように、社会情勢を捉えて付加価値をつけられる管理会社を選べるとベストでしょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
横溝 浩由
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