木造アパートの売却|売りどきや方法、注意点を解説
木造アパートの売却を成功させるためには、不動産市場の変動を読み、最適なタイミングで売り出す必要があります。また、木造アパートならではの魅力をアピールする手法も、他の物件種別とは異なる知識が要求されます。
木造アパートの売却に際して押さえておきたいポイントを解説します。売りどきの判断基準や売却方法、売却時の注意点も紹介します。
この記事の目次
木造アパートの売りどきはいつ?
収益目的で建てた、もしくは購入した木造アパートはどのようなタイミングで売り出すべきでしょうか。木造アパートの売りどきについて解説します。
木造アパートの売却価格
木造アパートを売却する場合、以下の価格を把握しておく必要があります。
- 収益価格
- 積算価格
収益価格とは、対象不動産がこれから生み出すと想定される収益を求めて、その収益の現在価値の総和を言います。収益価格を求める方法として、直接還元法とDCF法があります。
直接還元法は、以下のように計算します。
直接還元法の収益価格=年間純収益÷還元利回り
DCF法は、物件の投資期間内の純収益総額と売却時の予想価格を現在の価格に割り引いて計算します。木造アパートでDCF法を用いるケースは少ないです。
築年数が相応に経過した木造アパートの場合は、収益価格より土地の積算価格を重視する傾向があります。その場合は原価法で価格を求めます。
原価法は、査定対象を再度建築や造成した場合、いくらかかるかと言う再調達価格を算出し、その再調達価格から築年等の減価修正を行い、対象物件を評価する方法です。
なお、土地の積算価格は、国税庁が公表している「相続税路線価」を用いることが多いです。土地の積算価格を相続税評価額とする場合、以下のように計算します。
土地の積算価格=路線価×地積×補正率
建物の積算価格は、新築建物の課税評価基準をベースに実際に建築するアパートの工事費を勘案して再調達価格を決定します。算出した再調達価格に残化率を掛けますが、残化率は残耐用年数÷耐用年数で計算できます。建物の耐用年数は、国税庁が公表している減価償却資産の耐用年数(木造アパートは22年)を参考にすることが一般的です。
建物の積算価格=再調達価格×延床面積×(残耐用年数÷耐用年数)
売却価格が高くなるタイミング
売却価格が最も高くなるタイミングで売却することができれば、売却益が最大化となるため、木造アパートの売りどきといえます。
直接還元法は、「年間純収益÷還元利回り」で計算するため、年間純収益が大きく、還元利回りが低くなると収益価格は最大化されます。
純収益を大きくするには、賃貸収益を増やす(賃料をあげる、空室を減らす)、または支出を減らす(管理費や修繕費を削減する)ことが必要です。
還元利回りは、将来的に期待される純収益を現在価格に割り戻すために用いる利率で、不動産市況だけでなく、金融や経済動向にも左右されます。経済の成長期待が大きければ、不動産特有のリスクが小さくなる傾向にあるため、還元利回りは低くなります。
したがって、収益価格をベースに考えると、アパートが高稼働でかつ、不動産を含めた経済動向の見通しが明るいタイミングで、売却価格が大きくなります(売りどきになる)。
次に積算価格で考えます。建物の積算価格は、「再調達価格×延床面積×(残耐用年数÷耐用年数)」で計算するため、築年数の経過とともに低下していきます。
一方、土地については、築年数は関係ありません。土地の積算価格は「路線価×地積×補正率」として計算するため、路線価が上昇すれば土地の積算価格は伸びます。路線価は、公示価格の8割程度となるように設定されています。
つまり、経済動向や社会的要因により地価が上昇すれば土地の積算価格は増加します。したがって、築年が経過した木造アパートでも、周辺地価が上昇するなどしていれば、高い価格で売却できる可能性があります。
木造アパート売却時にかかる税金
木造アパートの売却するタイミングを理解するうえで、不動産に関する税金を把握する必要があります。不動産を売却する際にかかる税金は以下のものがあります。
- 譲渡所得税
- 印紙税
- 登録免許税
- 消費税
売却を計画するうえで、保有期間によって税率が変化する「譲渡所得税」の理解が必要です。木造アパートの保有期間が5年超を長期譲渡所得と言い、5年以下を短期譲渡所得と言います。
要件 | 税率 | |
---|---|---|
短期譲渡所得 | 所有期間が5年以下 | 39.63% |
長期譲渡所得 | 所有期間が5年を超える | 20.315% |
木造アパートを売却して利益が発生する場合、所有期間5年で大きく変化することが分かります。なお、税務上の所有期間の数え方は特殊なので注意が必要です。アパートの所有期間は、売却した年の1月1日までの期間を数えます。
売却を計画する際には、単純な売却益だけでなく、譲渡所得税を考慮して検討する必要があります。
木造アパートの売却方法は2つ
木造アパートを売却する方法は以下の2つです。
- オーナーチェンジ
- 空渡し/更地渡し
オーナーチェンジ
オーナーチェンジとは、アパートの賃貸人の地位を売却先に承継する方法です。
買い手が投資目的などで継続して賃貸収益を確保する目的の場合、オーナーチェンジとなります。オーナーチェンジは賃貸人として賃借人から賃料を得る権利のほか、管理会社や税金の負担義務も承継します。
賃借人から敷金を預かっている場合、敷金返還債務は買主に移りますので、預かり敷金の精算が必要です。また固定資産税や修繕工事などについても、売買契約や精算合意書の中でしっかり取り決める必要があります。
空渡し/更地渡し
空渡しおよび更地渡しについては、収益物件としてではなく、建替えや戸建て建築など土地の価値を優先する場合の取引になります。
木造アパートの築年が経過し、周辺の賃貸物件と比較して競争力が低下した場合、リノベーションなどで投資するより、建替えや多用途に転換したほうが評価が高くなる場合があります。
木造アパートの売却手順
木造アパートの売却手順は以下の流れです。
- 売却計画策定
- 必要書類の整理
- 売却する木造アパートの査定
- 仲介会社の選定
- 売却活動、レポーティング
- 売却先の調査
- 売買契約締結
- 決済、引渡
いつ、誰をターゲットに売却するのかなど基本的な事項を計画します。不動産市況や金融動向、資金繰りや税金対策などしっかりとした売却計画をたてる必要があります。
売却計画ができれば、売却に必要な書類をまとめます。主な必要書類は以下です。売却時までには確実に準備しておきましょう。
- 賃貸借契約書(覚書等を含む)
- 登記事項証明書
- 建築確認済証、検査済証
- 登記済証
- 固定資産評価証明書
- 住宅地図
- 建物図面
- 公図
- 地積測量図
- 修繕履歴一覧、予定工事計画
- 管理契約書、付随契約書
- 管理経費一覧表
- 消防、建築設備等の各種点検報告書
必要書類が整ったら、売却価格のシミュレーションを行います。直接還元法と土地の積算価格を計算して、売却価格のイメージを持ちましょう。
不動産仲介会社は、アパートなどの収益物件の取り扱い実績が豊富な会社がおすすめです。
売却活動を開始したあとは、定期的な進捗報告を受けるようにします。売却活動がうまく進捗しないようであれば、設定した売却価格やスケジュールの見直しが必要になります。
売却活動が進み、購入意向申込書を受領したら、買い手の調査をしっかり行います。支払い能力はもちろんのこと、反社会的勢力排除の対策として十分なチェックは欠かせません。
売買契約書は、通常仲介会社が作成してくれますが、余裕があれば弁護士に契約書のリーガルチェックを依頼することをおすすめします。不動産売買契約は専門知識が必要で、分かりにくい言い回しなどもあるため、弁護士に依頼することで法務リスクを回避し、かつ、優位に交渉できる可能性があります。
木造アパート売却時の注意点
オーナーチェンジの場合でも、空渡し・更地渡しの場合でも木造アパートの売却時には注意点があります。しっかり理解し、トラブルを未然に防ぎましょう。
オーナーチェンジの場合
オーナーチェンジで売却する場合、必要書類をしっかり整理することが重要です。
価格の大きな決定要素になる賃貸借契約書、修繕記録、管理契約などはもちろんのこと、建築確認申請済証や検査済証は非常に重要な書類です。
建築確認申請済証や検査済証がない場合、金融機関のローン審査がおりない場合があるため、売却の評価額が下がったり買い手がつかないケースがあります。売却活動前に確認しておきましょう。
空渡し/更地渡しの場合
空渡しや更地渡しの場合、賃借人が完全にいない場合は問題ありませんが、賃借人が残っている場合には注意が必要です。
借地借家法で賃借人の権利は守られており、賃貸人は正当事由がない場合、賃借人への立退き要求は認められません。何が正当事由にあたるかは、過去の判例などを確認する必要があり、単純に売却や老朽化だけでは難しい可能性があります。
賃借人との賃貸借契約の経緯、利用状況、アパートの耐震状況など複合的に勘案して検証する必要があるため、立退き関係に詳しい弁護士や不動産会社に相談するのが一般的です。
また、仮に立退きの正当事由があったとしても、相応の立退料が必要なるので、売却計画の中で費用を見込んでおく必要があります。
通常の区分マンションや戸建てと異なり、木造アパートの売却は売りどきや売却方法などが複雑であり、不動産取引に関する相応の経験や知識が必要です。間違った判断などを行わないため、親身になって相談できるプロの不動産会社に相談することをおすすめします。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
横溝 浩由
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