不動産投資
2023.10.27

相続時にアパートローンはどうなる?必要な手続きやトラブル回避のコツ

相続時にアパートローンはどうなる?必要な手続きやトラブル回避のコツ

アパート経営をしていた人が亡くなって、物件を相続するケースがあります。亡くなった人(被相続人)が、アパートローンを利用していて、返済が途中の状態だったとしたら、このローンはどうなるのでしょうか。

相続時のアパートローンについて詳しく解説します。

この記事の目次

相続時にアパートローンはどうなる?

相続におけるアパートローンの扱いについて詳しく説明します。

相続して名義を変更する必要がある

相続は、不動産や現金といったプラスの財産だけが対象ではありません。借入金などのマイナスの財産も同時に相続します。

つまり、相続人はアパートローンの残債も相続し、亡くなった被相続人に代わる新たな債務者となって返済していく必要があります。

相続に伴って行われるのが、アパートローンの債務者の名義変更です。

通常の相続財産は、相続人のうち誰が相続するのかを相続人が話し合って決定します。それに対して、債務については、相続人だけで相続する人を決めることはできません。債務には、貸し手である債権者がいるため、債権者の意向を踏まえる必要があります。

アパートローンには、通常、連帯保証人が立てられています。連帯保証人は、債務者が返済できなくなったときに、代わりに返済を求められる立場です。そのため、この場合もまずは連帯保証人が債務を担うべきといえます。

多くの場合、アパートローンの連帯保証人は配偶者や子どもなどです。これらは法定相続人でもあるため、アパートローンの残債を相続するのは、連帯保証人である相続人になるでしょう。

団体信用生命保険に加入している場合

アパートローンの債務者が、団体信用生命保険(団信)に加入しているケースがあります。

団信は、個人の住宅ローンではよく用いられる、債務者を被保険者とする生命保険(死亡保険)のことです。債務者がローン返済の途中で亡くなった場合、残債に相当する生命保険金が支払われ、保険金によって残債が精算されるため、遺族が残債を背負わなくてよいという仕組みです。

アパートローンの場合も同様で、団信に加入していれば残債はなくなります。相続人としてはアパートローンを相続しなくてよいという安心感があるでしょう。

一方で、マイナスの相続財産が消えて、プラスの財産である不動産だけを相続することになるため、相続税の問題が生じます。相続対策としてアパート経営をしている場合、団信の加入には注意が必要です。

アパートローンは相続放棄できる?

借入金などのマイナスの相続財産を相続したくない場合、相続人は相続放棄という手続きもできます。

しかし、マイナスの相続財産だけの放棄はできず、相続放棄をした場合、プラスの相続財産も受け取れません。

それでも、アパートローンの残債があるアパート以外にめぼしい財産がない場合は、負債を背負って経営を続けるくらいならすべて相続放棄したい、と考える人もいるでしょう。

しかし、連帯保証人になっている場合、相続放棄しても連帯保証人として債務から免れることはできないため、注意が必要です。

アパートローンの相続で必要な手続き

アパートローンの残債があるアパートを相続する場合、どのような手続きが必要なのでしょうか。

アパートそのものの相続登記を行う

基本的には、アパートローンを相続する人が、アパートの物件そのものも相続し、その経営を引き継ぐはずです。

次に解説するアパートローンの名義変更と併せて、物件の相続を進めていく必要があります。

まずは、相続人間で遺産分割協議を行い、アパートを含むすべての相続財産を漏らさず、誰が何をどれだけ相続するのかを決定します。

そのうえで、アパートを相続する人は、物件の相続登記を行います。相続登記とは、簡単にいえば「名義変更」のようなものです。

相続登記は、法務局で手続きをします。相続では、ほかにもさまざまな手続きがあるので、まとめて司法書士などの専門家に依頼するのがスムーズでしょう。

アパートローンの名義変更

アパートローンの相続は、債務者の変更という形で手続きを行います。これを「債務者変更登記申請」といいます。

名義変更を行うには、貸し手である金融機関の承諾が必要です。債務者が亡くなった以上、金融機関は相続人が債務を相続して残債を返済してほしいと考えますが、かといって、誰でもよいわけではありません。

実際に返済されなくては意味がないため、アパートローンの相続人=新たな債務者として問題がないかの審査が行われます。金融機関の審査を経て初めて、ローンの名義変更が可能です。

なお、前述したとおり、連帯保証人がいる場合は、基本的には連帯保証人が債務を引き継ぐべきだと考えられます。そのため、まず連帯保証人の確認が行われます。

管理会社や入居者への連絡・通知

アパートを相続した人は、被相続人に代わる新たな経営者です。そのことを経営のパートナーである管理会社や入居者にも知らせる必要があります。

単にオーナーが代わったというだけでなく、賃料の支払先などが変わるという意味合いもあるため、重要な通知です。

準確定申告、相続税の申告など

相続に伴って生じるそのほかの手続きも忘れないようにしましょう。

たとえば、準確定申告は、相続があることを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から4カ月以内に相続人が行う手続きです。

準確定申告は、確定申告に相当する手続きといえます。

確定申告は、所得税や住民税の課税額を決めるため、1年分の所得について翌年の2月16日から3月15日までに行う手続きです。しかし、亡くなった人はそれ以降の所得がありません。そのため、翌年の確定申告を待つことなく、亡くなってから4カ月以内に確定申告に相当する準確定申告を遺族が行う必要があります。

被相続人がアパート経営をしていた場合、存命中の家賃収入などを不動産所得として申告する必要があり、手間もかかります。早めに着手するようにしましょう。

さらに、相続開始10カ月以内には、相続税の申告と納付を行う必要があります。

相続税の申告では、まず相続財産がきちんと分割されていなくてはなりません。アパートローンの相続についてもすべてを終えておきましょう。

相続予定のアパートは売却するのがおすすめ

アパートローンの残債があるアパートの相続では、トラブルが発生するおそれがあります。事前にできる対策はありますが、手続きの手間などを考えると、相続前に話し合って売却してもらうのが一番よい選択肢です。

よくあるトラブル

アパートローンの相続でよくあるトラブルが2つ挙げられます。

名義変更の許可がもらえない

アパートローンを相続しようにも、金融機関から名義変更の許可がもらえないケースがあります。つまり、相続人がアパートローンの審査に通らない状況です。

アパートローンは、年収など本人の属性だけでなく、物件の収益性なども加味して審査されるため、オーナーの経営手腕も要素のひとつです。相続人が不適当だと考えられた場合、名義変更が許されない可能性もあります。

アパートローンを相続しても返済が滞る

アパートローンを相続できたとしても、その返済が滞ってしまうトラブルもあります。

遺産分割協議が進まないなど、相続の手続きに手間取って相続が完了しない間も返済を待ってもらえるわけではありません。

また、アパートの賃料収入が思わしくないなどの状況があれば、経営を立て直そうにも相続が終わらないとどうにもならないということもあり、返済が遅れやすいようです。

トラブル対策

前述したようなトラブルに対して、事前にできる対策を考えてみましょう。

遺言

まずは、遺産分割協議がスムーズにできるよう、遺言を作成し、あらかじめ相続について決めておきましょう。

しかし、遺言は、相続の指針にはなっても強制力を持つものではありません。相続人を含めた話し合いで、関係者全員の合意を得ておくことは必須です。いくら遺言があっても、その内容に同意しない相続人がいれば、結局、遺産分割はうまくいきません。

また、法的に有効な形式で遺言を残すために、専門家のアドバイスも必要です。

返済資金の確保

相続後の返済の滞りを避けるために、事前に、返済用の資金を準備しておくのも有効な方法です。

相続人が自身で資金準備をするほか、被相続人が現金を生前贈与しておく手もあります。被相続人が生命保険に加入しておいて、相続発生時に保険金を渡せるようにしておくのもよいでしょう。

また、被相続人が亡くなったときに、速やかに家賃振込先の口座を変更するなどの、実務上の対策も講じておきたいものです。被相続人の口座は、相続開始時に凍結される場合があるため、入居者からの家賃収入を返済に回せなくなるおそれがあるためです。

団体信用生命保険つきローンへの借り換え

前述したように、団体信用生命保険(団信)に加入していれば、債務者が亡くなった時点でアパートローンの残債はなくなります。

ただし、団信は途中からの加入ができないため、別の団信つきローンで残債分を借り入れ、現在の残債を清算する、いわゆる借り換えの形を取る必要があります。

すでに述べたように、この方法は、相続対策としては意味がなくなることもあるため、十分に検討してください。

売却は根本的な解決ができる

根本的な解決法として、アパートを相続前に売却する方法があります。

アパートローンの残債があっても、アパートの売却益で完済ができるなら、売却することは可能です。

完済が見込めない場合でも、自己資金で不足分を返済したり、金融機関の許可を得たうえで売却したりもできます。

売却できれば、アパートとアパートローンにまつわる相続上のトラブルが生じないことはもちろん、事務的な手間もかかりません。もちろん、経営を引き継ぐ必要もなくなります。

物件を相続したい、経営を引き継ぎたい、という希望がなければ、売却も含めて検討してみましょう。

アパート売却が得意な不動産会社に相談しておこう

ポイントになるのは、アパート売却によってローンの完済が可能かどうかという点です。

いくらで売れるのかは、物件の条件にもよりますが、売却をサポートしてくれる不動産会社の手腕によるところも大きいものです。

まずは、アパート売却の実績が豊富な不動産会社に相談し、査定を受けてみましょう。

相続はいつ起こるかわかりませんので、早めに相談だけでもしておいて、対策を進めておくべきです。

この記事を書いた人

著者写真 TERAKO編集部
小田急不動産
鈴木 和典

小田急グループの総合力を活かしながら、これまで幅広く不動産実務を経験して参りました。現在は、本社営業センターの責任者を務めております。私たちの発信が人生100年時代の選択肢を広げるきっかけになれれば大変うれしく思います。 著者の記事一覧はコチラ
お問い合わせ

メモアイコン Other Articles その他の記事を見る

一覧はコチラ
アパート経営でかかる固定資産税は?計算方法や軽減措置について解説
不動産投資 2024.10.29
アパート経営でかかる固定資産税は?計算方法や軽減措置について解説

TERAKO編集部 小田急不動産 鳥塚 正人

アパート経営で青色申告はすべき?必要な手続きや忘れた場合のリスクを紹介
不動産投資 2024.10.29
アパート経営で青色申告はすべき?必要な手続きや忘れた場合のリスクを紹介

TERAKO編集部 小田急不動産 飯野一久

アパート経営は30年後にはどうなっている?継続可能なアパート経営の重要ポイント
不動産投資 2024.10.29
アパート経営は30年後にはどうなっている?継続可能なアパート経営の重要ポイント

TERAKO編集部 小田急不動産 鈴木 和典

本コラムに関する注意事項

本コラムは一般的な情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘することを目的とするものではありません。本コラムは、その正確性や確実性を保証するものではありません。その内容は執筆者本人の見解等に基づくものであり、当社の見解等を示すものではありません。いかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。本コラムの記載内容は、予告なしに変更されることがあります。