アパートの立ち退き料の相場はいくら?立ち退き交渉の進め方も解説
アパートオーナーが入居者(借主)に立ち退きを求める際に、支払うとされている立ち退き料の相場はいくらぐらいなのでしょうか。
アパートの立ち退き料の相場や、立ち退き料が不要なケースなどについて解説します。
この記事の目次
アパートの立ち退き料、相場はいくらぐらい?
アパートの立ち退き料に相場はありません。なぜなら、個別事象ごとに解決に必要な金額は異なるからです。
最初に、そもそも「立ち退き料」とは何か、から説明していきます。
立ち退き料とは何か
最近では、「立ち退き料」という言葉は広く用いられるようになりました。しかし、これは法律上定められた用語ではありません。
借地借家法によって借主の居住権が権利として強く保護され、アパートオーナーが契約を終了させて立ち退きを求めるために正当事由が必要になってからは、「借主を立ち退かせるための手続き」が必要になりました。
借主が居座っている場合の具体的な手続きとして、オーナーは裁判を起こし勝訴判決を得たうえで、強制執行の手続きにより借主を退去させます。これには時間と手間、そして費用が掛かります。これらをお金で解決しようというのが「立ち退き料」なのです。
立ち退き料の決め方
立ち退き料に、相場や決まった計算式はありません。
要するに、オーナーの側での「立ち退いてもらいたい必要性」と、借主の側での「居座る必要性」のバランスで決まるのです。
このような状況に加え、両者の事情も加味されます。たとえば、オーナーに立ち退いてもらいたい強い正当事由がある場合(オーナー側に有利)や、借主の側に落ち度や、契約違反がある場合(借主側に不利)などは、両者の必要性のバランスに影響します。つまり、立ち退き料の金額が変わってくるのです。
家賃の6カ月〜1年分、50万〜100万円が一般的な相場だとする慣習もあるようです。
立ち退き料の支払時期
当然ですが、立ち退き料の支払時期は、立ち退き完了後または立ち退きと同時、になります。もし立ち退きが完了していないのに支払ってしまうと、再び居座られる可能性があるからです。
通常は、立ち退きに双方が立ち会ったうえで、その現場で立ち退き料の授受が行われるようです。
立ち退き料の内訳
立ち退き料を難しく定義すると、「賃借人が賃貸物件から立ち退く場合に被ることとなる不利益を金銭などに見積もって補償するもの」となります。
一般的には、以下の3つの性格を有しています。
移転費用の補償
1つ目は、立ち退きによって賃借人(借主)が支払わなければならない移転費用の補償です。さらに、以下の3点に分解されます。
- 引っ越し費用
- 移転先取得のための支払費用(敷金、権利金、仲介料など)
- 移転先において増額した賃料差額
居住権等侵害の補償
2つ目は、立ち退きによって賃借人(借主)が事実上失う利益(居住権など)の補償です。
たとえば移転先が今までの場所と比べて間取り、広さ、使いやすさ、近隣環境、ロケーションなどで劣っていた場合、精神的、肉体的な不利益を被ります。つまり「居住権侵害による補償」といえます。
利用権の補償
3つ目は、本来継続すべき利用権が、途中で消滅を余儀なくされたことへの補償です。いわゆる「借家権」といわれるものです。
立ち退き料が不要となるケース
立ち退き料の支払いは、オーナーと借主の事情のバランスを埋めるものです。オーナー側に退去を求める強力な正当事由がある(バランスのプラス評価)や、借主側に債務不履行などがある(バランスのマイナス評価)場合は、バランスの目盛りがオーナー側に目一杯振れるような状態です。そのため、バランスを埋める立ち退き料の支払が不要となるケースがあります。
また、契約の仕方によっては、借主の居住権の継続を認めない場合もあります。それぞれをみていきましょう。
家賃滞納の場合
最初に、オーナーが借主に対し立ち退きを要求する2つのケースを整理しておきます。
- 契約更新時に、その更新を拒絶あるいは解約申し入れする場合
- 借主の債務不履行を理由とすして契約解除する場合
2つ目のケースで、借主が家賃滞納などの債務不履行している場合、オーナーの正当事由は必要ありません。
家賃滞納の場合の具体的手続きは、賃料支払の催告後に、債務不履行による契約解除の通告をします。これで退去しないようであれば、訴訟~強制執行の手続きを進めます。
ただし前に述べたように、お金も時間もかかりますので、適当な段階で若干の立ち退き料を支払って、和解するケースが多いようです。
定期建物賃貸借の場合
定期建物賃貸借契約では、賃貸人(オーナー)は契約の設定時に賃借人(借主)に対して、あらかじめ「この契約は更新がなく、必ず定めた期限どおりに終了する」ということを、書面を交付して説明します。これにより、普通賃貸借契約のように契約満了時にもめることはありません。
この契約は、普通の賃貸借契約と比較し、以下のような違いがあります。
出典:国土交通省「定期建物賃貸借」
建物老朽化の場合
アパートの老朽化が、「オーナー側の正当事由に該当するかどうか」は、老朽化の程度により違ってきます。たとえば、老朽化が著しく倒壊の危険性があったり、衛生状況が悪化したりしている場合などは、正当事由として認められる可能性が高いです。
なお、現行の耐震基準を満たさなくなった建物を立て替えたいという理由で、借主に明け渡しを求めた裁判について、判例があります。
- 勝訴:東京地裁 H25.1.25(判例時報2184号57頁)
- 棄却:東京地裁 H25.12.24(判例時報2216号76頁)
このように、同じような事情の場合でも、裁判所はケースバイケースで判断します。
一時使用の場合
一時使用のための借家契約は、借家法を適用しないとされています。つまり、借家法ではなく民法の規定に従って契約解除できますので、オーナーの正当事由は必要とされません。
たとえば、賃借人が展示会場として使うとか、一定期間のみ療養生活をするなど、借主側の使用目的が明らかに一時的な場合には客観的合理性があり一時使用と認められます。
アパート立ち退き交渉の進め方
借主にアパートの立ち退きを求める際の手続きや対応の流れを解説します。
単純なケース
<一時使用の場合>
正当事由、立ち退き料を考慮することなく立ち退きを請求できます。
<定期建物賃貸借の場合>
満了前1年から6カ月以前までの通知期間に、借主に通知するだけで確定的に契約が終了します。
交渉が必要なケース
<オーナーの立ち退きに係る正当事由が万全の場合>
借主と話し合い、合意できない場合は調停〜訴訟と進みます。判決を得て、強制執行で立ち退きを行います。
ただし、時間とお金を節約するため、途中で立ち退き料支払いを条件に交渉することもあります。
<オーナーの立ち退きに係る正当事由が万全ではない場合>
立ち退き料の支払を前提に、借主と話し合いを行います。ただし正当事由が万全でないため、立ち退き料は高くなるでしょう。
借主に債務不履行があるケース
賃料不払いの場合は、その催告を経て、契約解除を申し入れます。居座る場合は、話し合い、調停、訴訟、強制執行と進みます。
専門家の利用を検討しよう
立ち退き交渉について説明してきましたが、借主との交渉が長引くと、素人のオーナーにとっては荷が重い状態になります。オーナーには他にもすべきことがあるでしょうし、このような後ろ向きの事象にかかわっている暇はないはずです。
このようなときには、専門家の利用を検討しましょう。法律家(弁護士、司法書士)や法律や立ち退き事例に詳しい不動産業者なども選択肢になるでしょう。外部の知識も借りながら、有意義なアパート経営を行いましょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久
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