アパートを相続したくない!相続放棄の方法やデメリットを紹介
遺産相続の対象となるアパートが相続後に負担となる可能性があれば、相続したくないと考えるでしょう。特に、老朽化などで空室率が高く、収益率が悪いアパートはリスクが高いでしょう。
相続したくないなら、相続放棄を選択することもできます。しかし、アパートだけでなくすべての遺産を手放す必要があるなど、デメリットもあるため、慎重に検討する必要があります。
この記事の目次
アパートを相続したくない!相続放棄の方法
アパートなどの遺産を放棄する場合は、家庭裁判所へ相続放棄の申請を行えば手続きが完了します。ただし、申請するためには、相続人や遺産の把握などの準備が必要です。
相続放棄の具体的な方法を順を追って説明します。
相続人について把握する
遺産を相続する場合も、相続を放棄する場合も、まず法定相続人について把握する必要があります。
法定相続人になる人は、以下の優先順位が決められています。
順位 | 血縁関係 |
---|---|
必須 | 配偶者 |
第1位 | 死亡した人の子供(亡くなっている場合は代襲相続人) |
第2位 | 死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など) |
第3位 | 死亡した人の兄弟姉妹 |
配偶者は必ず法定相続人となり、順位が高い人と一緒に法定相続人となります。
たとえば、父親が亡くなった場合、配偶者が存在すれば法定相続人のひとりとなります。そして子どもが2人いる場合は、配偶者と子どもの合計3人が法定相続人となり、第2位以下の血縁関係は対象外です。一方で、子どもがいない場合は、第2位の血縁関係、それもいなければ第3位の血縁関係者が法定相続人です。
子どもが先に亡くなっている場合は、その権利を失うのではなく、代襲相続人として子どもの子ども(孫)以降に引き継がれていきます。
参考:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
相続する遺産を把握する
法定相続人を把握したあとは、実際に相続対象となる遺産を把握します。
相続放棄では、負債となる遺産を放棄して利益になる遺産は相続するような選り好みはできません。すべて相続するか、すべて放棄するかの選択です。
あとから「実は借金があった」と気づき後悔しないように、すべての遺産を把握しておきましょう。
また、遺品整理をするなかで相続の対象となるものを勝手に処分すると、法定単純承認とみなされ、遺産相続したものとして扱われてしまいます。法定単純承認とみなされると、相続放棄ができなくなるため、注意しましょう。
遺品整理のなかでも、法定単純承認となりやすいのが形見分けです。
生前大切にしていた時計や車、絵画、アンティーク家具など、価値があるものはすべて対象になる可能性があります。手紙や写真、また賞状など第三者に価値がないものは対象とはなりませんが、少しでも悩むならむやみに処分しないようにしましょう。
相続放棄に向けた申請準備
相続放棄に必要な書類は、相続人によって異なります。
配偶者の場合は、以下の3点を準備しましょう。
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
配偶者以外の場合は、上記3点にプラスした書類が必要となります。
たとえば、親の死亡に伴う相続を子どもが放棄する場合は、追加で「被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本」を提出します。
反対に、子どもの死亡に伴う相続を親が放棄する場合は、以下2点を追加します。
- 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
事由により必要な書類が異なるため、正しくは家庭裁判所に相談しましょう。
家庭裁判所へ申請
各申請書類がそろったら、家庭裁判所へ相続放棄の申請を行います。申請には、収入印紙と返信用の切手が必要です。
申請自体は書類を提出して完了するため、さほど難しいものではありません。
家庭裁判所からの照会
家庭裁判所に相続放棄の申請を行ってから、1〜2週間を目安として「相続放棄照会書」と「相続放棄回答書」が送付されてきますので、期日内に回答する必要があります。
相続放棄は、申請が認められたあとに撤回できません。赤字のアパートを相続したくないために、相続放棄の手続きをしたあとに、想定以上の金銭(預金通帳や株券など)の所有が判明したからといって取り消すことは認められません。
そのため、申請内容に誤りがないかを含めて相続放棄照会書で「本当に相続を放棄するのか」を確認し、その回答を相続放棄回答書にて行います。
ここで回答した内容には公的な効力を持ちますので、よく理解したうえで回答することです。
相続放棄のデメリット
相続放棄には負債を抱え込まないで済むメリットがありますが、デメリットに注意が必要です。
3カ月以内に手続きが必要
相続放棄については、民法で以下のように定められています。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認または放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人または検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
自己のために相続の開始があったことを知ったときとは、一般的に被相続人が亡くなった日ですが、その事実を知ることが遅れた場合、また対象となる遺産があることを知り得なかった場合も考えられます。
しかし、そうした個別事情が認められるかは別の話になるため、原則として亡くなった日から3カ月と考えます。
この3カ月の間に、すべての遺産を把握する必要があります。アパートの経営については収支計画を勘案するとともに、ほかに相続人が存在しないかどうか、また存在する場合は分割方法などを考えなければなりません。
もちろん、お通夜や葬儀、四十九日、被相続人自身の住居の整理など、その間にするべきことは多くあります。3カ月という期間は、相続放棄を検討するにはあまりに短い時間といえるでしょう。
すべての遺産を手放す必要がある
繰り返しになりますが、相続放棄をする場合は、相続するすべての遺産の権利を放棄します。たとえば、赤字のアパートは放棄して、現金だけを相続するといった選択はできません。
アパートを相続した場合の負担とプラスの遺産をよく比べたうえで、相続放棄を検討する必要があります。
アパート以外で相続したい遺産があるなら、一度相続したうえで、アパートだけを売却するのもひとつの選択肢です。
相続放棄しても管理責任が残る
相続放棄をすれば、アパートに対する責任が完全になくなるわけではありません。
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
相続を放棄したのち、ほかの相続人が管理を開始するまで管理責任を負います。
これは新たな管理責任者が、管理を開始する前に破損・損壊・消失などのトラブルが発生しないよう、管理責任者の不在期間をなくすためです。
ほかに相続人がいない場合、また相続人すべてが相続放棄をした場合は、家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立てを行い、相続財産管理人が管理を開始するまで責任を負います。
また、資産の価値により、数十万円程度の費用が必要になることもあります。
相続したくないアパートは売却するのがおすすめ
すべての遺産を手放す相続放棄を選択しなくても、相続してからアパートを売却すれば、維持管理の手間や費用はかかりません。また、売却代金を相続税の支払いに充てられますし、手元にお金が残る可能性もあります。
相続放棄ではなく売却を選ぶべき理由を解説します。
相続放棄のデメリットが解消できる
相続放棄をすると、すべての遺産を手放す必要があります。しかし、相続してからアパートを売却する場合は、ほかの遺産を手に入れてアパートだけを手放すことが可能です。「遺産の中で、アパートだけがいらない」と考えている方に向いている方法といえるでしょう。
また、相続放棄は、3カ月以内に資産を把握し、複雑な申請を実施しなくてならず、判断も含めて難しい側面があります。いったん相続してから売却する場合は、検討を重ねたうえで自分の好きなタイミングでアパートを手放すことができます。
このように相続放棄のデメリットをアパートの売却によって解消できます。
相続人が複数でも分割しやすい
相続人が複数の場合、遺産の分割問題が発生します。誰がなにを相続するのかは簡単に決定ができずにもめることがよくあります。
特にアパートの場合、同価値・同状況のものを相続人の数だけ所有しているケースはないといえるでしょう。大半がひとつのアパートを分割することになります。
アパートを売却して現金化すれば、公平に分割できるためトラブルを防止できます。また、維持管理の手間を押し付けられるような事態にもなりません。
まずはどれくらいで売れそうか確認しよう
アパートなどの収益物件は、購入から売却までの出口戦略が重要です。しかし、相続した場合、多くが途中の状況となる現時点の収益しか把握ができないため、戦略が立てにくいのも事実でしょう。
そのため、現状を把握するためにも、まずは不動産会社にどれくらいでアパートが売れそうかなどを確認してもらうとよいでしょう。
不動産会社は、中小よりも大手を選ぶのがおすすめです。投資物件の売却は一般的な住宅の売却よりも専門的な知識や経験が必要なためです。
アパートを相続したくないからと相続放棄を検討している方でも、まずは気軽な相談から始めましょう。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
鳥塚 正人
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