立ち退きにおける正当事由を解説。正当事由がない場合の立ち退き交渉の進め方も解説
アパートの売却や建て替えなどを目的に、入居者の立ち退きを希望しているオーナーは少なくありません。
しかし、オーナー主導の立ち退きでは、入居者に正当事由を示さなければなりません。立ち退きにおける正当事由とはどういったものなのでしょうか。正当事由がなくても立ち退きを進めることは可能なのでしょうか。
この記事の目次
アパートなどの立ち退きには正当事由が必要
入居者を退去させたい場合でも、退去させることは簡単なことではありません。それは、法律上、貸主(オーナー)と借主(入居者)の力関係において、借主のほうが圧倒的に強く規定されているためです。
明治時代、貸主と借主の関係は1898年(明治31年)に施行された民法によって定められ、両者の関係は対等とされていました。現在と同じように借主はいつでも自身の都合で退去できることに加えて、貸主もいつでも借主を退去させることができました。
しかしそれでは、住まいのない借主は弱い立場となってしまいます。オーナーは入居者へ不当な賃料の増額を迫ったり、退去を強要しさらに条件のよい借り手に貸すといったケースが横行したようです。
それでは入居者の生活が守られない、つまり「入居者の法律上の保護」がありません。そこで、1921年(大正10年)に、現在の借地借家法の前身となる「借地法」と「借家法」が制定され、借主の法的地位の向上が図られました。これが現在にも続く「借主が強い」という力関係につながっていきます。
現在では、オーナーが入居者を退去させるのは、たとえそれが「契約期間満了時」といえども簡単ではありません(そもそも建物賃貸借契約は「継続」が原則です)。
これらの事情について、法律上の背景や解決方法などについて説明します。
正当事由とは何か
「入居者の法律上の保護」と述べましたが、具体的には、オーナーが立ち退きを求める場合、「オーナー側に正当事由が必要」と規定されています。
正当事由には、以下のようなものがあります。
オーナー自身が住居として使用する必要がある
オーナー自身が家族で海外赴任し、その間、自宅を貸していたが、日本に戻ってくることになったため自宅に居住する必要が生じたケースなどがあります。
オーナーの家族・近親者の住宅として使用する必要がある
たとえば、息子が結婚することになり、新居として現在貸している物件に住まわせたいケースがあります。
オーナーまたは家族が営業のために使用する必要がある
現在、貸店舗としているが、家族がその場所で営業を開始する必要があるケースなどがあります。
対象物が老朽化し、大規模修繕または新築する必要がある
老朽化の状態が著しく、建築基準法に基づく「除去、改築、修繕等を行う勧告」を受けているケースなどがあります。
その他の事情
相続により不動産を取得したが、相続税支払いのために、アパートを取り壊し更地として土地を売却したいケースなどなどがあります。
このような「オーナー側の事情」を、「入居者が住み続けるための事情」と比較して、最終的には裁判所が判断します。つまり、正当事由があるからといって、必ず認められるわけではありません。
たとえば、オーナーが海外から帰ってくるからといっても、必ずオーナーが勝つわけではありません。オーナーにほかにも居住可能な家屋がないかどうかや、入居者にその場所を転居できない深刻な理由があるかどうかなど、オーナーと入居者双方の事情が考慮されます。
正当事由がない場合は立ち退き交渉ができない?
正当事由がない場合でも、立ち退き交渉は可能です。普段から、入居者と良好な人間関係を築いていれば、交渉によって円満に退去してもらえるでしょう。
オーナーが入居者に立ち退いてほしい場合の手順と方法を説明します。
通常の立ち退き交渉手順
一般的に、立ち退き交渉は、以下の手順で行います。
- 契約を更新しない旨の通知
- 私的話し合い
- 法廷闘争
- 勝訴~強制執行
ただし、最後まで行くと、お金も時間もかかります。
1.契約を更新しない旨の通知
契約期間満了時にその契約を更新しないとする場合は、期間満了の6カ月〜1年前に入居者に通知する必要があると、借地借家法で決められています。
最終的には法廷闘争になる可能性もあるため、通知方法は内容証明を選択しましょう。
2. 私的話し合い
話し合いでは、誠意をもって行うことが肝要です。内容証明発送前に事情を説明しておくべきでしょう。また、退去後の転居先をあっせんする行為も、効果的です。
3.法廷闘争
入居者が退去に同意しなければ、次のステージは法廷です。調停を経て裁判に至ります。
この時点で、「(オーナーの)退去してほしい事由」がどれくらい重要なのかが判断され、判決に影響します。
4.勝訴~強制執行
裁判勝訴となった場合は、その判決を基に入居者に退去を要請します。入居者が応じない場合は、判決による強制執行を行います。
なお、オーナー側の事由が弱い場合、立退料の支払いを行い、入居者を納得させることもあります。
<参考>立退料について
立退料は、法律上定められた費用ではありません。それでも実態として、「月額賃料の数カ月分」などという意見が、インターネット上でも見られます。
立退料は結局、紛争解決のための手段といえます。交渉で合意しない場合、法廷で白黒つけるしかないわけですが、その手間と時間を節約するための一手法です。いわば金で時間を買う、というわけです。
したがって、立退料相場というものもなく、争いのケースごとに合意できる額を探ることになります。
入居者に債務不履行などがある場合の立ち退きについて
入居者に非がある場合の立ち退きに関しては、事情が異なります。
まず入居者には、借家契約に基づいた借家人として、以下のような義務があります。
- 家賃を支払う義務
- 契約により定められた使用目的に従って使用する義務
- その他
入居者が上記の義務に違反している場合、オーナーは「入居者の債務不履行」を理由に契約を解除できます。この場合は、前述の正当事由の有無は問題にされません。
家賃を支払う義務に関して
家賃不払いを例とすると、「2〜3日支払いが遅れた」というケースでは債務不履行に該当しません。該当するのは、その行為が、オーナーと入居者の信頼関係を破壊する程度の義務違反である場合です。この場合、オーナーは入居者に立ち退き請求を行えます。
しかし、家賃滞納が社会的にやむを得ないと考えられるケース(失業や病気など)の場合は、立ち退き要求が認められない場合もあります。
使用目的違反に関して
通常の契約には、「第三者に又貸ししてはならない」や「他人を住まわせてはならない」などの条文が入っています。これらに違反し、再三の警告にもかかわらず改善が見られない場合は、立ち退きを要求する事由となります。
その他
たとえば、よくあるケースとして騒音によるトラブルがありますが、その騒音が常軌を逸しており、近隣住民が深刻な被害を受けるようであれば、立ち退き事由になるでしょう。この場合、近隣住民の証言や、録画・録音などの記録を残しておきましょう。
立ち退き交渉をスムーズに進める不動産会社の選び方
入居者との関係がこじれると、長い裁判に突入します。これらの諸手続きを素人が行うのは、非常に骨が折れることが容易に想像できます。
しかし、弁護士と顧問契約といったものも、大げさな気がします。そのため、立ち退き交渉をスムーズに行う不動産会社を選ぶのが重要です。
立ち退き交渉における不動産会社の役割
多くのオーナーは、日常の不動産管理のために管理会社(不動産会社や不動産管理会社が多い)と契約しています。
管理会社が、立ち退きの場面でも前面に出て交渉してくれる、というのがオーナーにとっては、費用的にも手間的にもベストな解決策でしょう。
不動産会社の選び方のポイント
立ち退き交渉のことを考えると、おのずと選択すべき不動産会社も決まってきます。
- 立ち退きの取り扱い実績が豊富であること
- 法務分野を始めとして、各分野の専門家とネットワークを持っていること(弁護士との提携など)
- 日常的に、入居者と良い関係を築いていること
このような不動産会社を選択することができれば、やっかいな立ち退き請求の場合でも、心強いパートナーになります。
この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久
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