アパート経営の修繕積立金はいくら必要?目安と将来の修繕費を解説
アパート経営では、築年数が進むにつれて外壁や屋根、設備などの修繕費が発生します。特に大規模修繕では数百万円単位の支出になることもあり、計画的な積立が欠かせません。修繕積立金は毎月いくら必要なのでしょうか。国土交通省の資料をもとに積立額の目安や修繕費の相場を整理し、築年数に応じた修繕計画と資金が不足した場合の対処法を解説します。
この記事の目次
アパート経営では、築年数が進むにつれて外壁や屋根、設備などの修繕費が発生します。特に大規模修繕では数百万円単位の支出になることもあり、計画的な積立が欠かせません。修繕積立金は毎月いくら必要なのでしょうか。国土交通省の資料をもとに積立額の目安や修繕費の相場を整理し、築年数に応じた修繕計画と資金が不足した場合の対処法を解説します。
アパート経営の修繕積立金の目安
アパート経営の修繕積立金には、法律で定められた一律の金額や積立義務はありません。分譲マンションとは異なり、オーナー自身が建物の状態や将来の修繕費を踏まえて積立額を決めます。
目安を考える際は、毎月の積立額、家賃収入に対する割合、戸数や構造による違いを確認することが重要です。
毎月の積立額
国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」には、賃貸住宅の修繕事例と長期収支シミュレーションが掲載されています。
木造2階建て6戸、建築費4,200万円の試算では、小修繕と計画修繕を合わせた費用が40年間で約2,489万円となっています。
これを月額に換算すると、次のようになります。
| 項目 | 金額 |
| 40年間の修繕費 | 約2,489万円 |
| 年間の修繕費 | 約62万円 |
| 毎月の修繕費 | 約5.2万円 |
| 1戸あたり月額 | 約8,600円 |
出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」
この試算を参考にすると、木造アパートでは1戸あたり月額8,000〜1万円程度が積立を検討する際の一つの出発点になります。
ただし、この金額は特定の建物を想定した試算から算出したものであり、すべてのアパートに当てはまる基準ではありません。また、退去時の原状回復費用は別途見込む必要があります。
実際の積立額は、建物の規模や築年数、設備の状態などを踏まえて調整しましょう。
家賃収入から考える積立額
修繕積立金は、家賃収入に対する割合から考える方法もあります。
国土交通省の木造6戸の試算では、40年間の家賃収入が約1億5,347万円、修繕費が約2,489万円で、家賃収入に占める割合は約16%です。
ただし、修繕費は毎年均等に発生するわけではありません。
| 経過年数 | 修繕費 | 家賃収入に占める割合 |
| 1〜10年目 | 243万円 | 約5% |
| 11〜20年目 | 824万円 | 約21% |
| 21〜30年目 | 864万円 | 約25% |
| 31〜40年目 | 558万円 | 約18% |
| 40年間合計 | 2,489万円 | 約16% |
出典:国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」の試算をもとに集計
築10年までは修繕費が比較的少ない一方、築10年を超えると外装工事や設備交換が重なり、負担割合が高くなります。
この試算を参考にするなら、家賃収入の15〜20%程度を積立の検討材料にできます。
例えば、年間家賃収入が600万円の場合、15%なら年間90万円、毎月7.5万円です。
ただし、試算では原状回復費用が別枠となっており、40年間で約1,064万円が計上されています。原状回復費用も同じ資金から支払う場合は、その分を上乗せする必要があります。
戸数・構造による違い
修繕積立金は、アパートの戸数や構造によっても変わります。
戸数が多い物件では、足場や屋根など建物全体にかかる費用を複数の住戸で分担できるため、1戸あたりの負担が小さくなる場合があります。
一方、戸数が少ないアパートは、足場代などの固定的な費用が1戸あたりの積立額に与える影響が大きくなります。
また、木造、鉄骨造、RC造では、外壁や屋根、防水などの工事内容も異なります。
国税庁が定める住宅用建物の法定耐用年数は、木造22年、RC造47年、鉄骨造は骨格材の厚さによって19〜34年です。
ただし、法定耐用年数は税務上の減価償却に用いる年数であり、建物の寿命や修繕周期を示すものではありません。
積立額を決める際は、構造だけで判断せず、建物の規模や施工方法、設備の種類を踏まえて長期修繕計画を作成することが重要です。
アパートの修繕箇所と費用の目安
アパートの修繕費は、外壁や屋根などの建物外部、給排水や空調などの設備、室内の原状回復に大別できます。
修繕箇所によって工事の周期や金額が異なるため、積立額を決める前に主な費用を把握しておきましょう。
外壁・屋根
外壁や屋根は、雨風や紫外線の影響を受けやすく、定期的な塗装や補修が必要です。
一般的には築10〜15年前後が外壁塗装や屋根の補修を検討する時期の目安になります。ただし、実際の工事時期は使用している材料や劣化状況によって異なります。
外壁塗装の費用は、建物の規模や施工条件によって大きく変わります。
| 建物の規模 | 外壁塗装費用の目安 |
| 木造2階建て(延床面積約500㎡) | 200万〜300万円 |
| RC造3〜4階建て | 500万〜1,000万円 |
外壁塗装には塗料代や施工費に加えて足場代がかかります。
屋根や防水の工事と同時に実施すれば、足場を共用できるため、工事を別々に行う場合より費用を抑えられる可能性があります。
防水工事
屋上やバルコニー、共用廊下などの防水工事も、定期的に必要となる修繕です。
防水層が劣化すると雨漏りが発生し、室内の内装や設備まで被害が広がるおそれがあります。
防水工事には、表面のトップコートを塗り替える方法と、防水層そのものを改修する方法があります。
トップコートの塗り替えは5〜10年程度、防水層の改修は10〜20年程度が一般的な目安ですが、工法や使用環境によって異なります。
国土交通省のRC造8階建て33戸の事例では、廊下・階段・バルコニーの防水工事に463万円、屋上の防水関連工事に265万円が計上されています。
防水工事を先送りすると、雨漏りによって補修範囲が拡大する可能性があるため、定期点検による早期発見が重要です。
給排水設備
給排水設備は、配管の腐食や詰まり、漏水などに対応するための修繕が必要です。
特に築20〜30年程度の物件では、配管の材質や使用状況によって更新を検討するケースがあります。
部分的な補修であれば比較的小規模な工事で済みますが、配管全体を交換する場合は床や壁の解体・復旧が必要になり、数百万円規模になることもあります。
受水槽や給水ポンプが設置されている物件では、それらの点検や交換費用も考慮しなければなりません。
給排水設備は不具合が発生すると複数の住戸に影響する可能性があるため、定期的な点検と清掃を行い、更新時期を見通しておくことが大切です。
給湯器・エアコン
給湯器やエアコンは、設置から一定の年数が経過すると故障や交換が増えてきます。
給湯器の設計標準使用期間は一般に10年程度とされており、エアコンも10年以上使用すると交換を検討する機会が増えます。
交換費用の目安は次のとおりです。
| 設備 | 交換費用の目安 |
| 給湯器 | 10万〜30万円 |
| エアコン | 8万〜15万円 |
いずれも機種や設置条件、工事内容によって金額は変わります。
例えば、10戸のアパートで1戸あたり20万円の設備交換が必要になれば、合計200万円の支出です。
新築時に同じ設備を一斉に導入した物件では、交換時期も重なりやすいため、戸数分の費用をあらかじめ積み立てておく必要があります。
共用部
アパートの共用部には、廊下や階段、手すり、照明、郵便受け、ゴミ置き場などがあります。
特に外階段や手すりなどの鉄部は、塗装が劣化するとサビが進み、安全性に影響する可能性があります。
また、共用部の状態は入居希望者の印象にも関わります。照明が暗い、ゴミ置き場が汚れている、階段の塗装が剥がれているといった状態は、物件の競争力を低下させる要因になります。
安全性に関わる箇所を優先しながら、照明のLED化や共用部の美観改善なども計画的に進めることが重要です。
室内・原状回復
室内の修繕は、入居者の退去に伴う原状回復が中心です。
壁紙の張り替え、床材の補修、ハウスクリーニング、水回り設備の修理などが該当します。
原状回復費用は、外壁塗装のように一定の周期で発生するものではなく、入居者の入れ替わりに応じて発生します。
国土交通省の木造6戸の試算では、40年間の原状回復費用は約1,064万円で、家賃収入の約7%に相当します。
なお、通常損耗や経年劣化による修繕費は原則としてオーナー負担です。入居者に請求できない費用があることを前提に、修繕積立金とは別に原状回復用の予算を確保する方法もあります。
築年数で変わるアパートの修繕計画
アパートの修繕費は、築年数によって発生する金額や工事内容が変わります。
特に築10年以降は外装工事や設備交換が重なるため、新築時から長期的な計画を立てておくことが重要です。
築10年まで
築10年までは、比較的修繕費が少ない時期です。
国土交通省の木造6戸の試算では、1〜10年目の修繕費は約243万円で、年間平均約24万円となっています。
この時期は、設備の小修繕などが主な支出となります。また、入居者の退去に伴う原状回復費用も発生します。
ただし、修繕費が少ないからといって積立を後回しにすると、築10年以降の大規模修繕に対応できなくなる可能性があります。
新築時から一定額を積み立て、築10年前後には建物診断を実施して、外壁や屋根、防水の状態を確認しましょう。
築10〜20年
築10年を超えると、外壁塗装や防水工事、鉄部塗装などの大規模修繕が必要になりやすくなります。
国土交通省の試算では、11〜20年目の修繕費は約824万円で、家賃収入の約21%に相当します。
特に11〜15年目は修繕費が集中し、約665万円が計上されています。
また、給湯器やエアコンなどの設備交換も重なりやすい時期です。
融資の返済が続いている場合は、家賃収入から返済額や管理費などを差し引いたうえで、修繕費を確保する必要があります。
築20〜30年
築20年を超えると、外装工事の2回目や給排水設備の更新などが視野に入ります。
国土交通省の試算では、21〜30年目の修繕費は約864万円で、家賃収入の約25%を占めています。
築年数が進むにつれて設備の故障も増えやすく、複数の工事が重なる可能性があります。
一方、融資の返済が終了する物件もありますが、返済がなくなった分をすべて自由に使えるとは限りません。
減価償却費や借入金利息などの経費が減少すると、税負担が増える場合もあります。
修繕費と税金の両方を考慮して、手元資金を管理することが重要です。
築30年以降
築30年を超えると、外壁や屋根、設備などの修繕を繰り返している物件も多くなります。
建物の状態によっては、部分的な修繕だけでなく、大規模な改修や設備の全面更新が必要になることがあります。
また、築年数の経過によって家賃水準や入居率が低下している場合は、修繕費を回収できるかどうかも検討しなければなりません。
この時期は、修繕を続けて経営するだけでなく、リノベーションや建て替え、売却なども含めて判断することが重要です。
修繕積立金が想定より足りなくなる理由
毎月一定額を積み立てていても、工事の際に資金が不足することがあります。
主な原因は、想定以上の修繕費、設備交換の集中、家賃収入の減少、資材費・人件費の上昇です。
想定以上の修繕費
建物診断や工事の途中で、想定していなかった劣化が見つかる場合があります。
例えば、外壁の下地が傷んでいたり、防水層の内部まで水が浸入していたりすると、当初予定していた塗装や補修だけでは対応できません。
劣化を放置するほど工事範囲が広がり、修繕費が高額になる可能性もあります。
ニッセイ基礎研究所のレポート「賃貸住宅修繕共済の登場で期待される計画修繕の普及」では、2020年の民間賃貸住宅オーナー向けアンケートで、築25年以上の物件でも半数近くが大規模修繕を「実施していない」と回答したことが紹介されています。
定期的に建物診断を行い、必要な工事を早めに把握することが、想定外の支出を抑えるうえで重要です。
設備交換の集中
同じ時期に設置した設備は、故障や交換のタイミングも重なりやすくなります。
給湯器やエアコンの交換が複数戸で発生すると、短期間にまとまった資金が必要です。
さらに、設備交換と外壁塗装や防水工事が重なると、積立金だけでは対応できなくなる可能性があります。
設備ごとに設置年や交換履歴を記録し、今後必要になる費用を年度別に整理しておきましょう。
空室・家賃下落による収入の減少
修繕積立金の原資となる家賃収入が減ることも、資金不足の原因です。
国土交通省の試算では、新築時の満室時賃料を100とした場合、築20年で74.9、築40年で60.7まで低下する想定となっています。ただし、これは築年数の経過に伴う賃料水準の変化を示したものであり、空室による収入減少とは区別して考える必要があります。
これは特定のシミュレーション上の前提であり、すべてのアパートで同じように家賃が下がるわけではありません。
ただし、空室の増加や家賃の下落によって収入が減ると、当初予定していた積立額を確保できなくなる可能性があります。
積立計画を作成する際は、満室を前提にせず、一定の空室率や家賃下落を織り込んでおくことが重要です。
資材費・人件費の上昇
修繕費は、建築資材や人件費の上昇によっても増加します。
一般財団法人建設物価調査会が公表した2026年9月の「建設資材物価指数」によると、東京の建築補修に使用される資材価格の指数は147.8となり、前年同月比5.5%上昇しました。また、同月の「建築費指数」では、木造住宅の工事原価が前月比0.5%、RC造の集合住宅が同0.7%上昇しています。
こうした価格上昇が続くと、将来の修繕費が当初の想定を上回る可能性があります。例えば、現在300万円と見積もられる工事でも、仮に費用が年3%ずつ上昇すれば、10年後には約403万円となる計算です。
実際の上昇率は一定ではありませんが、現在の見積額だけを基準に積立額を決めると、将来的に資金が不足するおそれがあります。資材価格や工事費の動向を定期的に確認し、修繕計画と積立額を見直すことが重要です。
修繕費の負担が増えたアパートの選択肢
修繕積立金が不足している場合や、今後の修繕費が家賃収入を圧迫する場合は、工事内容や経営方針を見直す必要があります。
必要な箇所に絞った修繕、大規模修繕、建て替え、売却などの選択肢を比較しましょう。
必要な箇所に絞った修繕
修繕資金に余裕がない場合は、工事の優先順位を明確にすることが重要です。
雨漏りにつながる防水の劣化や、外壁のひび割れ、階段や手すりの腐食など、安全性や建物の保護に関わる箇所を優先します。
一方、美観の改善を目的とする工事は、建物の状態や入居状況を踏まえて実施時期を調整できる場合があります。
ただし、工事を細かく分けると足場代などが重複し、結果的に総額が高くなる可能性もあります。
施工会社と相談し、必要な工事をまとめられるか確認しましょう。
大規模修繕による長寿命化
外壁や屋根、防水、設備などをまとめて修繕することで、建物の性能を維持し、長期的な賃貸経営を続ける方法もあります。
大規模修繕にはまとまった資金が必要ですが、劣化を放置して被害が広がることを防ぎ、将来の修繕費を抑えられる可能性があります。
また、外観や共用部の状態が改善すれば、入居者募集にも良い影響が期待できます。
ただし、修繕費をかけた分だけ家賃が上がるとは限りません。工事費と今後の家賃収入を比較し、投資額を回収できるかを確認する必要があります。
建て替えによる再スタート
建物の老朽化が進み、修繕を重ねても収益性の改善が難しい場合は、建て替えも選択肢になります。
新築アパートにすることで、設備や間取りを現在の入居者ニーズに合わせられ、家賃水準の改善が期待できます。
一方、既存建物の解体費用や新築工事費が必要となり、入居者がいる場合は退去に関する調整も必要です。
賃貸人から契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりする際には、借地借家法上の正当事由などが問題となります。
建て替え後の家賃収入だけでなく、建築費や借入金の返済、空室リスクを含めて収支を試算しましょう。
修繕前の売却
大規模修繕に必要な資金を確保することが難しい場合は、修繕前にアパートを売却する方法もあります。
売却すれば、将来の修繕費や設備交換の負担から離れ、資金を別の投資などに活用できます。
ただし、買い手は建物の劣化状況や今後必要になる修繕費を踏まえて価格を判断するため、修繕前の状態が売却価格に影響する可能性があります。
売却を検討する際は、複数の不動産会社に査定を依頼し、現在の物件価格を把握しましょう。
そのうえで、売却価格からローン残高や諸費用、税金を差し引いた手取り額と、修繕を行って保有を続けた場合の収支を比較します。
修繕積立金は、将来の支出に備えるための資金です。しかし、積立額を増やすだけで経営上の問題が解決するとは限りません。
建物の状態や修繕費、今後の家賃収入を踏まえ、保有継続と売却のどちらが合理的かを判断することが大切です。
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この記事を書いた人
TERAKO編集部
小田急不動産
二本松 敏
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