不動産投資
2026.10.19

原状回復費用のオーナー負担はいくら?相場と入居者負担との違い

原状回復費用のオーナー負担はいくら?相場と入居者負担との違い

賃貸経営では、入居者の退去に伴う原状回復費用がオーナーの負担になることがあります。経年劣化や通常損耗はオーナー負担、入居者の故意・過失による損傷は入居者負担が原則ですが、実際には判断が難しいケースも少なくありません。負担範囲の考え方や間取り別の費用相場、入居者に請求できるケースを整理し、修繕負担が大きい物件の売却についても解説します。

この記事の目次

賃貸経営では、入居者の退去に伴う原状回復費用がオーナーの負担になることがあります。経年劣化や通常損耗はオーナー負担、入居者の故意・過失による損傷は入居者負担が原則ですが、実際には判断が難しいケースも少なくありません。負担範囲の考え方や間取り別の費用相場、入居者に請求できるケースを整理し、修繕負担が大きい物件の売却についても解説します。

原状回復費用は誰が負担する?オーナーと入居者の負担範囲

原状回復とは、退去時に部屋を入居当初の状態へ戻すことではありません。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」では、入居者の故意・過失や善管注意義務違反、通常の使用を超える使用によって生じた損耗・毀損を復旧することとされています。

民法第621条でも、通常の使用による損耗や経年変化について、入居者は原状回復義務を負わないことが明文化されています。

費用負担をめぐるトラブルは少なくありません。国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」によると、PIO-NETに登録された賃貸住宅の原状回復に関する相談件数は、2023年度が13,273件、2024年度が13,312件、2025年度が14,711件でした。

オーナーは、損耗の原因と契約内容を踏まえ、適切な負担範囲を判断する必要があります。

オーナー負担となる経年劣化・通常損耗

経年劣化とは、時間の経過によって建物や設備の品質が低下することです。一方、通常損耗は、入居者が一般的な生活を送るなかで避けられない傷や汚れを指します。

例えば、壁紙の日焼けや家具の設置による床のへこみ、設備の自然故障などが該当します。これらの修繕費用は、原則としてオーナー負担です。

通常損耗や経年劣化による価値の減少は、家賃に含まれるものと考えられているためです。

なお、入居者に過失があっても、修繕費用の全額を請求できるとは限りません。壁紙などの内装材や設備は、経過年数に応じて価値が減少するため、入居者の負担割合を調整する必要があります。

ただし、すべての部材に同じ耐用年数が適用されるわけではなく、補修箇所や工事内容によって扱いが異なります。

負担範囲を左右する賃貸借契約の特約

国土交通省のガイドラインは、原状回復の一般的な判断基準ですが、それ自体に法的拘束力はありません。賃貸借契約に特約が設けられている場合は、その内容も負担範囲を判断する材料になります。

ただし、通常の原状回復義務を超える負担を入居者に課す特約は、無条件に有効となるわけではありません。ガイドラインでは、次の要件が示されています。

  1. 特約に客観的・合理的な理由があり、暴利的でないこと
  2. 入居者が通常の義務を超える負担を認識していること
  3. 入居者が特約による負担に同意していること

例えば、退去時のハウスクリーニング費用を入居者負担とする特約は一般的ですが、対象範囲や金額を明確にしておくことが重要です。内容が不明確だったり、入居者が十分に理解していなかったりすると、有効性を争われる可能性があります。

また、東京都では「賃貸住宅紛争防止条例(東京ルール)」により、宅地建物取引業者に対して、退去時の原状回復に関する基本的な考え方や契約上の負担内容などを説明する義務が定められています。

原状回復でオーナー負担になる主な費用

原状回復でオーナー負担となる費用は、壁紙や床の通常損耗、設備の老朽化など多岐にわたります。代表的な項目を確認しましょう。

壁紙・クロスの日焼けや変色

日焼けによる壁紙の変色、テレビや冷蔵庫の裏にできる黒ずみ、ポスターやカレンダーの掲示跡などは、原則としてオーナー負担です。画鋲やピンによる小さな穴も、通常の生活で必要な範囲であれば通常損耗に含まれます。

ガイドラインでは、壁紙の価値について、6年で残存価値が1円になる考え方が示されています。

例えば、張り替え直後の壁紙を入居者が不注意で汚し、3年後に退去した場合、経過年数による負担割合はおおむね50%となります。ただし、実際の負担額は張り替え時期や補修範囲などによって変わります。

日焼けなどの通常損耗によって壁紙を張り替える場合、その費用は原則としてオーナーが負担します。部屋全体の張り替えが必要になると費用も大きくなるため、退去時には壁紙の状態を確認し、必要な施工範囲を見極めることが重要です。

家具による床やカーペットのへこみ

ベッドやタンス、冷蔵庫などを置いたことによる床のへこみや設置跡も、通常損耗として扱われます。

カーペットやクッションフロアは、壁紙と同様に6年で残存価値が1円になる考え方が適用されます。ただし、フローリングは経過年数の扱いが異なり、部分補修では原則として経過年数による減価を考慮しません。

通常の家具の設置によって生じたへこみや跡を補修する場合、その費用は原則としてオーナーが負担します。一方、家具を引きずってできた傷など、入居者の不注意による損傷は入居者負担となる場合があります。

床材の種類や損傷の程度によって必要な工事は異なるため、補修の範囲を確認し、全面的な張り替えが必要かどうかを判断しましょう。

畳やフローリングの経年劣化

畳の日焼けによる変色やフローリングの色落ちも、通常の使用によるものであればオーナー負担です。

ただし、畳表の表替えやフローリングの部分補修には、壁紙のような6年間の経過年数による負担割合の計算は適用されません。

入居者の過失で傷が生じた場合は、必要な補修費用を請求できます。一方、フローリング全体を張り替える場合は、建物の耐用年数などを考慮して負担割合を判断します。

設備の老朽化や故障

エアコンや給湯器、換気扇などが通常の使用で故障した場合、修理・交換費用は原則としてオーナー負担です。

民法第606条では、賃貸人は賃貸物の使用・収益に必要な修繕を行う義務を負うとされています。ただし、入居者に責任がある原因で修繕が必要になった場合などは扱いが異なります。

設備の交換費用は機種や工事内容によって大きく変わります。特に給湯器やエアコンは高額になることもあるため、老朽化が進んでいる場合は計画的な更新が必要です。

次の入居者に向けた設備交換

入居者を募集しやすくするための設備交換やグレードアップも、オーナー負担です。

例えば、温水洗浄便座の設置、モニター付きインターホンへの交換、エアコンの追加などが該当します。

また、入居者が通常の清掃を行って退去した場合、次の入居者に向けたハウスクリーニング費用もオーナー負担が基本です。ただし、有効な特約がある場合は、入居者負担となることがあります。

これらの工事は、原状回復とは別に、物件の競争力を維持するための投資として考えることが重要です。

間取り別の原状回復費用の相場

原状回復費用は、部屋の広さや工事内容によって変わります。間取りが広いほど壁や床の施工面積が増え、クリーニングの作業量も多くなるため、費用が高くなる傾向があります。

一般的な原状回復工事費の目安は次のとおりです。

間取り 原状回復工事費の目安
ワンルーム・1K・1DK 2万〜4万円
1LDK・2K・2DK 4万〜9万円
2LDK・3K・3DK 7万〜13万円
3LDK以上 10万〜20万円

これらは一般的な費用の目安であり、実際の金額は建物の築年数や室内の状態、施工範囲によって異なります。設備交換や大規模な補修が必要な場合は、さらに高額になることもあります。

また、退去時に実施するハウスクリーニングの一般的な費用目安は、次のとおりです。

間取り ハウスクリーニング費用の目安
ワンルーム・1K・1DK 1.5万〜2.5万円
1LDK・2K・2DK 2.5万〜4万円
2LDK・3K・3DK 3万〜5万円
3LDK 4万〜7万円
4LDK以上 5万〜9万円

※一般的な料金水準を参考にした概算です。地域や清掃範囲、室内の汚れ具合によって変動します。また、原状回復工事費にクリーニング費用が含まれる場合もあるため、単純に合算しないよう注意が必要です。

注意したいのは、工事費の総額がそのままオーナーの負担額になるわけではない点です。

例えば、退去後の原状回復工事に15万円かかった場合でも、そのうち5万円が入居者の過失による補修費用として適正に請求できるのであれば、オーナーの実質的な負担は10万円となります。

一方、すべてが経年劣化や通常損耗に伴う工事であれば、原則としてオーナーが全額を負担します。

実際の負担額を把握するには、工事項目ごとに負担区分を整理し、入居者に請求できる範囲を確認する必要があります。

入居者に請求できる原状回復費用

入居者に原状回復費用を請求できるのは、故意・過失や善管注意義務違反、通常の使用を超える使い方によって損傷が生じた場合です。

ただし、損傷があれば無条件に全額を請求できるわけではありません。補修範囲や経過年数を考慮し、合理的な金額を算定する必要があります。

故意・過失による傷や破損

入居者の不注意によって生じた傷や破損は、入居者負担となります。

代表的な例は、引っ越し作業中につけた壁や床の傷、子どもの落書き、壁に開けた大きな穴などです。

ただし、請求できるのは原則として損傷した部分の補修に必要な範囲です。壁紙の場合、傷んだ箇所を含む一面分が補修単位の目安となります。

また、壁紙などは経過年数を考慮して負担割合を算定するため、長期間使用されたものについて新品への交換費用を全額請求することは原則としてできません。

清掃不足によるカビや油汚れ

日常的な清掃や手入れを怠ったことで発生した汚れは、入居者負担になる場合があります。

例えば、キッチンの換気扇に蓄積した著しい油汚れ、清掃不足による浴室のカビ、結露を放置したことで拡大したカビなどです。

ただし、通常の生活で避けられない軽度の汚れまで入居者に請求できるわけではありません。

特にカビは、建物の断熱性能や換気設備の不具合などが原因となることもあります。入居者の管理不足が原因なのか、建物側に問題があるのかを確認する必要があります。

喫煙によるヤニや臭い

たばこのヤニによる壁紙の変色や、室内に染み付いた臭いは、通常の使用を超える損耗として入居者負担になる場合があります。

クリーニングでは除去できない場合、壁紙の張り替えや消臭作業が必要です。

ただし、壁紙の張り替え費用には経過年数が考慮されます。入居期間が長い場合、入居者に請求できる金額が少なくなることがあります。

喫煙による原状回復の負担を明確にしたい場合は、契約時に喫煙に関する特約を設け、対象となる費用や負担範囲を具体的に定めておく方法があります。ただし、特約を設ければ必ず全額を請求できるわけではありません。

ペットによる傷や臭い

ペットが柱や壁、床につけた傷や、室内に染み付いた臭いも、入居者負担となる代表的なケースです。

ペット不可の物件で無断飼育があった場合だけでなく、ペット可物件でも、飼育によって生じた損傷の内容によっては原状回復費用を請求できます。

ペット可物件では、通常の使用として許容する範囲や、退去時のクリーニング・消臭費用の扱いを契約書に明記しておくことが重要です。

また、敷金を通常より多く預かる場合も、退去時の精算方法を明確にしておくとトラブル防止につながります。

設備の不適切な使用による故障

設備を不適切に使用したことで故障した場合も、入居者負担となることがあります。

例えば、無断改造による設備の破損や、漏水に気づきながら連絡せず被害を拡大させたケースなどです。鍵の紛失による交換費用も、原則として入居者負担となります。

ただし、通常の使用による自然故障との区別が必要です。故障の発生状況や設備の使用年数を確認し、原因を明らかにしてから費用負担を判断しましょう。

原状回復や修繕の負担が大きい物件は売却も選択肢

原状回復費用は、入居者が入れ替わるたびに発生します。特に築年数が進んだ物件では、内装の張り替えに加えて設備交換や建物の修繕が重なり、オーナーの負担が大きくなることがあります。

さらに、物件の競争力が低下すると、原状回復工事を行っても次の入居者が決まらず、空室期間が長引く可能性があります。

修繕費が家賃収入を圧迫している場合は、保有継続と売却の両方を検討することが重要です。

入れ替わりコストと収益性

まず確認したいのは、入居者の入れ替わりによってどの程度の費用が発生しているかです。

原状回復費用だけでなく、工事期間や入居者募集期間に発生する家賃の機会損失も含めて計算します。

例えば、月額家賃6万円の物件で、オーナー負担の原状回復費用が9万円、空室期間が2カ月だった場合、入れ替わりに伴う負担は次のようになります。

  • 原状回復費用:9万円
  • 空室による家賃の機会損失:12万円
  • 合計:21万円

家賃の3.5カ月分に相当する金額です。

入居者の平均入居期間が2年であれば、1年あたり約10.5万円の入れ替わりコストが発生する計算になります。

さらに、入居者を確保するために家賃を下げる必要があれば、収益性は低下します。こうした費用を踏まえ、今後も十分な収益が得られるかを確認しましょう。

築年数と今後の修繕費

築年数が進むと、原状回復だけでなく建物全体の修繕費も増加しやすくなります。

特に給湯器やエアコン、換気扇などの設備は、同じ時期に設置されたものがまとめて交換時期を迎えることがあります。

また、屋根や外壁、防水、給排水管などの修繕が必要になると、まとまった資金を確保しなければなりません。

今後10年程度の修繕計画を作成し、想定される費用と家賃収入を比較することが重要です。

必要な修繕を行っても家賃の維持や入居率の改善が見込めない場合は、保有を続けるメリットが小さくなる可能性があります。

現在の物件価格

売却を検討する場合は、現在の物件価格を把握する必要があります。

不動産会社に査定を依頼し、周辺の取引事例や物件の収益性などを踏まえて売却可能な価格を確認しましょう。

ただし、査定価格がそのまま手元に残るわけではありません。売却時には仲介手数料や印紙税、登記費用、譲渡所得にかかる税金などが発生する場合があります。

また、ローン残高がある場合は、売却代金から借入金を返済する必要があります。

査定価格だけでなく、諸費用やローン返済額を差し引いた手取り額を把握することが大切です。

保有継続と売却の比較

保有継続と売却では、得られる収入や今後の費用負担が異なります。

項目 保有継続 売却
収入 家賃収入を継続して得られる 売却代金を一括で受け取れる
原状回復・修繕費 今後も発生する 売却後の負担はなくなる
空室リスク 継続して負う 売却後は負わない
資金の使い道 家賃収入を積み上げる 他の投資や借入金返済に活用できる
注意点 修繕費や空室の増加で収益が悪化する可能性 売却費用や税金が発生する可能性

保有を続ける場合は、家賃収入から管理費や修繕費、税金などを差し引いた収支を確認します。売却する場合は、査定価格から諸費用や税金、ローン残高を差し引いた手取り額を試算します。

そのうえで、将来の家賃収入や修繕費、物件価格の変動も考慮し、一定期間の収支を比較することが重要です。

原状回復や修繕の負担が増え、収益改善が難しい物件では、売却によって資金を回収することも選択肢になります。

まずは原状回復費用の負担範囲を正しく把握し、今後の修繕計画と収益性を確認しましょう。保有継続と売却の双方を数字で比較することが、賃貸経営の適切な判断につながります。

 

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この記事を書いた人

著者写真 TERAKO編集部
小田急不動産
飯野一久

「一期一会」がモットーです。これまでの投資不動産の売却・購入・資産の入れ替えの実務を通じて得られた知見を、少しでも、皆様に、わかりやく、丁寧にお伝え出来たらと思っております。 著者の記事一覧はコチラ
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