不動産投資
2026.10.13

アパート経営で必要な法定点検とは?種類・頻度とオーナーの義務を解説

アパート経営で必要な法定点検とは?種類・頻度とオーナーの義務を解説

アパートを所有するオーナーには、消防設備や建築設備、エレベーター、貯水槽、浄化槽など、法律で決められた点検や検査を受ける義務があります。怠れば罰則や事故時の賠償責任を問われかねず、不具合が見つかれば修繕費の負担も生じます。点検の種類と頻度、不具合が見つかったときの対応、売却という選択肢まで整理します。

この記事の目次

アパートを所有するオーナーには、消防設備や建築設備、エレベーター、貯水槽、浄化槽など、法律で決められた点検や検査を受ける義務があります。怠れば罰則や事故時の賠償責任を問われかねず、不具合が見つかれば修繕費の負担も生じます。点検の種類と頻度、不具合が見つかったときの対応、売却という選択肢まで整理します。

アパートで必要になる主な法定点検・頻度

アパートの法定点検は、根拠となる法律ごとに周期・対象・実施できる人が異なります。同じ共同住宅でも、階数や延べ面積、エレベーターや受水槽といった設備の有無によって対象になる点検が変わるため、まず全体像を押さえておく必要があります。主な点検は次の表のとおりです。

点検・検査 根拠法令 周期 対象の目安 実施者
消防用設備等の点検 消防法 機器点検は6カ月に1回、総合点検は1年に1回。結果の報告は共同住宅で3年に1回 消火器や自動火災報知設備など、消防法で設置義務のある設備がある建物 延べ面積1,000㎡以上などは消防設備士・点検資格者。それ以外は関係者自身も可
建築物の定期調査 建築基準法 3年に1回(用途により毎年) 特定行政庁が指定する規模・用途の共同住宅 一級・二級建築士、特定建築物調査員
建築設備・防火設備の定期検査 建築基準法 1年に1回 報告対象の建築物に設置された換気設備、排煙設備、非常用照明、防火扉など 建築設備検査員、防火設備検査員
エレベーターの定期検査 建築基準法 1年に1回 エレベーターを設置している建物(労働安全衛生法の性能検査を受けるものやホームエレベーターを除く) 建築士、昇降機等検査員
貯水槽の清掃・水質検査 水道法 清掃は年1回以上、検査は年1回以上 受水槽の有効容量が10㎥を超える簡易専用水道 清掃は専門業者、検査は登録検査機関
浄化槽の点検・検査 浄化槽法 法定検査は年1回、清掃は年1回以上(全ばっ気方式は半年に1回以上)、保守点検は処理方式や処理対象人員により異なる 浄化槽を設置している建物 指定検査機関、清掃業者、保守点検業者

建築基準法に基づく定期報告は、対象となる建築物の規模や用途を特定行政庁(都道府県や一部の市区)が定めています。たとえば東京都江東区は、共同住宅について「5階以上の階にある共同住宅部分が100㎡超、かつ共同住宅部分の床面積の合計が1,000㎡超」を報告対象の条件のひとつとしており、小規模なアパートは対象外になる場合があります(出典:江東区「定期報告が必要な建築物」)。東京都内では、特別区の区域は原則として各区役所、八王子市や町田市など11市は各市役所、それ以外の多摩地域の市は東京都多摩建築指導事務所が所管します。対象かどうかは、建物が所在する自治体の建築指導担当課で確認しましょう(出典:東京都都市整備局「定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」)。

定期報告の調査・検査項目は、令和6年国土交通省告示第974号と令和7年国土交通省告示第53号により見直され、令和7年7月1日に施行されました。自治体によっては独自の取り扱いがあり、東京都は常時閉鎖式防火扉を従来どおり特定建築物の定期調査で報告させています(出典:東京都都市整備局「定期調査・検査制度改正の内容」)。表の内容は全国共通の基本ですが、細部は自治体ごとに異なる点に注意が必要です。

消防用設備の点検

消防法第17条の3の3に基づき、建物の所有者・管理者・占有者には、消防用設備等の定期点検と結果の報告が義務づけられています。

点検は、設備の外観や機能を確認する「機器点検」が6カ月に1回、設備を実際に作動させて確認する「総合点検」が1年に1回です。点検結果の報告は、店舗やホテルなどの特定防火対象物では1年に1回、共同住宅などの非特定防火対象物では3年に1回必要です。

延べ面積1,000㎡以上など、一定の条件に該当する建物では、消防設備士または消防設備点検資格者による点検が必要です。専門業者に委託する場合も、点検・報告の義務は建物の関係者にあるため、実施状況や報告書の内容を確認しておきましょう。

出典:東京消防庁「消防用設備等点検報告制度」

建築物・建築設備の定期報告

建築基準法第12条に基づき、一定の規模や用途に該当する建物では、建築物や建築設備の定期調査・検査と、その結果の報告が義務づけられています。報告義務者は原則として所有者ですが、管理者が別にいる場合は管理者となります。

特定建築物の調査は一般的に3年ごと、換気設備・排煙設備・非常用照明などの建築設備の検査は毎年実施します。ただし、対象となる建物や報告周期は自治体によって異なるため、所在地を管轄する特定行政庁に確認しましょう。

出典:東京都都市整備局「定期調査・検査報告制度とは?」

防火設備の定期検査

防火扉や防火シャッターなど、一定の防火設備には、建築基準法に基づく定期検査が義務づけられています。対象となる設備は、原則として年1回、一級・二級建築士または防火設備検査員による検査と報告が必要です。

ただし、常時閉鎖式の防火扉などは、特定建築物の定期調査で確認する場合があります。検査対象や報告方法は自治体の規定を確認し、日常管理でも防火扉の周囲に荷物を置かないなど、正常に作動する状態を保ちましょう。

出典:江東区「防火設備定期検査」

エレベーターの定期検査

アパートやマンションの共用エレベーターは、建築基準法に基づく定期検査報告の対象となり、原則として年1回の検査と報告が必要です。検査は一級・二級建築士または昇降機等検査員などの有資格者が行います。

日常的な保守点検とは別に、法定の定期検査が実施されているかを確認することが重要です。管理会社や保守業者に任せきりにせず、検査結果や報告状況を把握しておきましょう。

出典:江東区「昇降機定期検査」

貯水槽の清掃・水質検査

受水槽の有効容量が10㎥を超える場合は、水道法上の「簡易専用水道」に該当し、設置者には衛生管理が義務づけられています。具体的には、貯水槽の清掃を年1回以上実施するほか、登録検査機関による施設の衛生状態や管理状況の検査を年1回以上受ける必要があります。

有効容量が10㎥以下の「小規模貯水槽水道」についても、自治体によって衛生管理の基準が定められているため、所在地の規定を確認しましょう。

浄化槽の点検・検査

下水道が整備されていない地域などで浄化槽を設置している場合、浄化槽法に基づく維持管理が必要です。維持管理には「保守点検」「清掃」「法定検査」の3つがあり、それぞれ実施する必要があります。

保守点検の頻度は浄化槽の種類や規模によって異なりますが、清掃は原則年1回以上、法定検査は使用開始後の検査に加えて毎年1回実施します。保守点検を業者に委託していても法定検査は省略できないため、実施状況を確認しておきましょう。

出典:神奈川県「浄化槽の維持管理」

法定点検で不具合が見つかったときの対応

法定点検は、実施して報告書を受け取った時点で終わりではありません。指摘を受けた箇所をどの順番で、いくらかけて直すのかを決めるところからが、オーナーの仕事になります。判断を誤ると、安全面のリスクと修繕費の負担のどちらも膨らみます。不具合の見方、修繕の優先度、収支への影響を押さえておく必要があります。

見逃せない建物の不具合

定期調査・検査は、国の告示が定める項目・方法・判定基準にもとづいて行われ、結果は調査結果表にまとめて報告します(出典:東京都都市整備局「定期調査・検査制度改正の内容」)。「要是正」と判定された箇所は、所有者が改善に取り組まなければなりません。点検項目が未記入の場合なども要是正となることがあるため、報告書の記載漏れにも注意が必要です。

とくに早い対応が求められるのは、人命や避難に直結する不具合です。自動火災報知設備や誘導灯の作動不良、防火扉の閉鎖不良、非常用照明の不点灯、エレベーターの異常などがこれに当たります。貯水槽についても、定期的な点検で破損や汚染などの不具合が見つかった場合は、速やかに改善する必要があります。

外壁のチョーキング(塗膜が劣化して粉状になる現象)やごみ置き場の美観悪化は、すぐに事故につながるわけではありません。ただし国土交通省の「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」では、こうした外観の劣化を放置すると競争力が下がり、修繕費の確保が難しくなる悪循環に陥ると示されています。

修繕の優先度と費用

修繕の順番は、劣化の程度より先に、危険の大きさで決めるのが基本です。

優先度 内容 進め方
高 消防設備、防火設備、エレベーター、非常用照明など、人命・避難に関わる不具合 指摘後すぐに対応し、是正の記録を残す
中 屋上防水、外壁、バルコニー防水など、雨漏りや躯体の劣化につながる部位 見積もりを取り、時期を決めて計画的に実施する
低 共用部の照明や内装など、美観や快適性に関わる部位 収支と空室の状況を見て判断する

費用の大きさは、築年数とともに変わります。国土交通省が「推定修繕工事項目、修繕周期等の設定内容」で示す長期修繕計画の設定例では、屋上防水や外壁塗装の補修・修繕は12〜15年周期、全面的な撤去・新設は24〜30年周期とされ、足場などの仮設工事も同じ周期で計上されています。

賃貸住宅の実例も参考になります。国土交通省がまとめた「賃貸住宅の計画修繕に関する事例」のうち、鉄筋コンクリート造で延べ面積約3,077㎡の賃貸住宅では、外壁目地コーキング補修・塗装とバルコニー防水塗装が16年、共用部のシート貼替が15年、照明器具の取り替えが12年、給排水管の取り替えが30年、屋根の張替・補修が32年という長期修繕計画が組まれていました。築10年目に管理会社が計画を作成し、おおむね2年に1回の建物点検も実施していたとされています。築10年を過ぎたころには、修繕が重なる時期に備えた資金の積み立てが済んでいる状態を目指す必要があります。

維持費を踏まえた今後の収支を計算する

修繕を決める前に、今後の収支を試算しておくと判断がぶれません。基本の式は、満室想定の家賃収入から空室による損失を引いて実収入を出し、そこから管理委託費、固定資産税、法定点検や清掃などの運営費、修繕費の年平均額、ローン返済額を差し引いて手取りを求める形です。

次の表は、8戸のアパートを想定した試算例です。数字は説明のための仮定で、実際の物件の数値ではありません。

項目 基本ケース 空室率20% 空室率20%+修繕費1.5倍
満室想定の家賃収入(月6万円×8戸) 576万円 576万円 576万円
実収入 518万円(空室率10%) 461万円 461万円
管理委託費(実収入の5%) 26万円 23万円 23万円
固定資産税・都市計画税 30万円 30万円 30万円
法定点検・清掃・保険など 40万円 40万円 40万円
修繕費の年平均(将来の工事費1,200万円を15年で積み立てる想定。右端は1,800万円) 80万円 80万円 120万円
ローン返済 250万円 250万円 250万円
手取り(税引前) 92万円 38万円 ▲2万円

全国の空き家率は、総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」で13.8%と過去最高になりました。平成30年調査の13.6%から0.2ポイント上昇し、賃貸用の空き家は約443万6千戸にのぼります。東京都の空き家率は10.9%です。空き家が増える中、築年数の進んだ物件ほど、入居者を確保するための工事や家賃調整が必要になりやすい点を、試算に織り込んでおきましょう。

法定点検を怠った場合のリスク

法定点検を怠ると、行政指導や罰則の対象となるだけでなく、事故発生時の賠償責任や建物の資産価値にも影響する可能性があります。賃貸オーナーが知っておきたい主なリスクを解説します。

行政指導や罰則

法定点検の未実施や報告義務違反に対しては、法律に基づく罰則が設けられています。主な制度と罰則は以下のとおりです。

点検・検査 違反の内容 罰則
消防用設備等の点検(消防法) 点検結果の未報告・虚偽報告 30万円以下の罰金または拘留
建築物・建築設備等の定期報告(建築基準法) 定期報告の未実施・虚偽報告 100万円以下の罰金
浄化槽の法定検査(浄化槽法) 受検命令への違反 30万円以下の過料

特に浄化槽の法定検査では、未受検の場合に指導・勧告・命令などの段階を経て、命令違反に対して過料が科されます。点検を専門業者に委託している場合も、報告が適切に行われているか確認することが重要です。

出典:東京消防庁「消防用設備等点検報告制度」、東京都都市整備局「定期報告に関するQ&A」、川崎市「浄化槽法定検査」

事故発生時の責任

点検不足や設備の不具合を放置した結果、火災や設備事故が発生した場合、オーナーが損害賠償責任を問われる可能性があります。

民法第717条では、建物などの設置・保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合の占有者・所有者の責任を定めています。特に、消防設備やエレベーター、共用廊下などの管理不備が事故につながった場合は注意が必要です。

法定点検を実施するだけでなく、不具合が見つかった際には速やかに修繕し、入居者の安全を確保することが重要です。

建物の資産価値への影響

法定点検や必要な修繕を怠ると、設備の不具合や建物の劣化が進み、資産価値の低下につながるおそれがあります。建物の管理状態が悪化すれば、入居者の満足度や賃貸経営の収益性にも影響します。

売却時には、点検報告書や修繕履歴が建物の管理状態を示す資料となります。適切に管理されてきたことを説明できるよう、点検結果や修繕記録を保管しておきましょう。

修繕費がかさむアパートは売却を考えるタイミング

築年数の経過とともに修繕費が増え、賃貸経営の収益性が低下している場合は、売却も選択肢となります。特に、大規模修繕を控えている場合や、修繕しても収益の改善が見込めない場合は、保有を続けるかどうか検討することが重要です。

大規模修繕前に考えたい売却

外壁塗装や屋上防水、給排水管の更新など、多額の費用がかかる工事を控えている場合は、売却を検討するタイミングのひとつです。

大規模修繕によって建物の状態が改善しても、工事費がそのまま売却価格に反映されるとは限りません。修繕後も十分な家賃収入が見込めるか、工事費を回収できるかを確認する必要があります。

売却を検討する際は、修繕前と修繕後の査定価格を比較し、工事費や税金なども考慮して、どちらが有利か判断しましょう。

修繕せずに売却する選択肢

修繕費が高額になる場合は、建物を修繕せず、現状のまま売却する方法もあります。特に、築年数が古く、大規模修繕を行っても収益の改善が見込めないアパートでは、有力な選択肢となります。

ただし、現状のまま売却する場合でも、建物の不具合や修繕履歴を買主に適切に伝える必要があります。契約内容と異なる不具合が見つかった場合は、契約不適合責任を問われる可能性があるためです。

売却前には点検報告書や修繕履歴を整理し、物件の状態を正確に伝えられるようにしておきましょう。

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この記事を書いた人

著者写真 TERAKO編集部
小田急不動産
二本松 敏

小田急グループの総合力を活かしながら、これまで幅広く不動産実務を経験して参りました。現在は、本社営業センターの責任者を務めております。私たちの発信が人生100年時代の選択肢を広げるきっかけになれれば大変うれしく思います。 著者の記事一覧はコチラ
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